(小谷太郎:大学教員・サイエンスライター)
2020年のノーベル物理学賞は、ブラックホールの理論的な研究でロジャー・ペンローズ教授に、超巨大ブラックホールの観測的研究でラインハルト・ゲンツェル所長とアンドレア・ゲズ教授に与えられました。おめでとうございます。大喜びでその業績をここに解説したいと存じます。
あのペンローズ教授がついにノーベル賞
英国オックスフォード大のロジャー・ペンローズ教授(1931年-)は世界的に有名な理論物理研究者で、ブラックホールの「特異点定理」や「ペンローズ機構」をはじめ、非周期的に平面を埋め尽くすペンローズタイル、機械制御に利用されている「一般逆行列」など、多方面で驚くべき発見を成し遂げ、その分野の常識をくつがえしています。
サイエンスライターとしても超一流で、『皇帝の新しい心』『心の影』などの刺激的な著作はベストセラーとなり、世界の老若男女の科学する心をワクワクさせました。(私も興奮して読んだ記憶があります。)
あまりに華々しい活躍をしているので、今回のノーベル賞の報には、「まだ受賞してなかったの?」という意外の声も聞かれるほどです。
ペンローズ教授の数々のノーベル賞級業績は、いくら語っても語り尽くせないのですが、バイト数にも限りがあるので、今回の受賞理由である「ブラックホールの生成が一般相対性理論の避けられない帰結であることの発見」にしぼって解説しましょう。
ブラックホールはないだろう論
1960年代、世間は「ブラックホール」という奇妙な存在の話題で沸いていました。
アインシュタインの一般相対性理論(略して相対論)から導かれるその存在は、超強力な重力を持ち、そのため光さえも脱出できず、真っ黒な穴ぼこのように「見える」というのです。そんな奇妙な物体が実在するのでしょうか。