国立天文台 野辺山電波観測所の朝

 2019年は、世界を驚かせる天文ニュースがあった。史上初のブラックホール撮像だ。八ヶ岳の麓、標高1350メートルの野辺山高原に位置する国立天文台 野辺山電波観測所(長野・南牧村)は日本の電波天文学の「聖地」といわれる。その聖地の所長、立松健一氏が2019年の天文学の発見を振り返るとともに、野辺山の日々の活動、2020年以降への天文学の展望を語る。(JBpress)

ブラックホールシャドウ撮影が世界中の話題に

 今年(2019)も多くの天文ニュースが報告されました。アポロ14号が持ち帰った岩石が地球で作られたものである可能性、小惑星が地球にニアミスしていたこと、宇宙膨張の標準理論と不一致(暗黒エネルギーが時間変化?)、すばる望遠鏡で撮影したアンドロメダ銀河の画像解析から暗黒物質が原始ブラックホールではないらしいことがわかったこと、我々の天の川銀河系に太陽質量の70倍の恒星質量ブラックホールが見つかったとの中国からの報告(それに対する反論)、宇宙は閉じているかもしれない観測結果、などなど。ブラックホール関係のニュースも多く出されました。

 今年の天文学最大の話題は、もちろんブラックホールシャドウ撮影の成功です。この偉業は天文学界のみならず、世界中の話題になりました。

アルマ望遠鏡ほかの電波望遠鏡で観測されたM87銀河のブラックホールシャドウ(出所:EHT Collaboration)

 前回の記事(「見えない宇宙を探る! 電波望遠鏡って何してるの?」https://jbpress.ismedia.jp/articles/-/56472)では、この撮影を可能にした電波望遠鏡とは何かについてお話ししました。可視光を見る光学望遠鏡は主に大人の星を見ているのに対して、電波望遠鏡は星や惑星の誕生の場である宇宙を漂う「雲」を観測し、星がどのように誕生するかという謎を探ることができます。また、電波望遠鏡を用いてブラックホールの研究もできます。

 今回は、ブラックホールはなぜ光るのかについて、そして、野辺山におけるブラックホールハンターの活躍の紹介を、お話ししたいと思います。