mRNAワクチンはちょっと工夫がしてあって、ウラシルUの代わりにN1-methylpseudouridineという部品が使われています。これが「Ψ」で表されているのです。
細胞は通常、よそからやってきた怪しいmRNAを受け入れず、破壊してしまうのですが、この工夫をしたmRNAワクチンは細胞の防御機構をすりぬけるのです。これによってワクチンのmRNAを細胞に読み取らせることが可能になりました。
このことは2005年にバイオンテック社のカタリン・カリコ博士(1955-)とドリュー・ワイスマン・ペンシルベニア大教授によって発見されました。2021年のノーベル賞に注目しましょう。
突然現れたかのように見えるmRNAワクチンですが、実はこうした無数の研究の積み重ねによって実現したのです。21世紀の先端科学の結晶とでも呼んでいいのではないでしょうか。
たとえ今回は旧式(とは言いすぎですが確立された手法)のワクチンが先に使われることになったとしても、mRNAワクチンの原理は、今後人類と感染症との戦いを変えていくと思われます。
*1: WHO, 2020/12/29, “Draft landscape of COVID-19 candidate vaccines.”
https://www.who.int/publications/m/item/draft-landscape-of-covid-19-candidate-vaccines
*2:厚生労働省、2021/12/24更新、『ワクチン開発と見通し』
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/vaccine_00184.html#h2_free4
*3:WHO, 2020/09, International Nonproprietary Names Programme, 11889
https://mednet-communities.net/inn/db/media/docs/11889.doc
*4:Bert Hubert, 2020/12/25, “Reverse Engineering the source code of the BioNTech/Pfizer SARS-CoV-2 Vaccine”
https://berthub.eu/articles/posts/reverse-engineering-source-code-of-the-biontech-pfizer-vaccine/
(日本語訳)
https://note.com/yubais/n/n349ab986da42
https://msakai.github.io/bnt162b2/reverse-engineering-source-code-of-the-biontech-pfizer-vaccine.ja/
2023年のノーベル生理学・医学賞は、「COVID-19に有効なmRNAワクチンの開発を可能にしたヌクレオシド塩基修飾法の開発」の功績で、カタリン・カリコ博士(1955-)とドリュー・ワイスマン博士(1959-)が受賞しました。
カリコ博士とワイスマン博士の開発した手法によって、mRNAワクチンという前代未聞の医療テクノロジーが実現し、パンデミックが制圧されたことは、改めて言うまでもないでしょう。みなさんもファイザーやモデルナのmRNAワクチンを打って、副反応に悩まされたりしたのではないでしょうか。誰もが納得のノーベル賞です。
この記事は2021年1月、まだ新型コロナウイルスが猛威をふるい、日本ではワクチンの接種が始まっていなかった時期に書かれたものですが、今回受賞となった研究を先駆けて解説し、ついでにカリコ博士とワイスマン博士の受賞を予想しています。
いま読み返すと、当時の不安な状況が思い起こされるとともに、それを一掃したmRNAワクチンという新技術のすごさが実感されます。カリコ博士とワイスマン博士の受賞と、ウイルスとの戦いに勝利した人類に、お祝い申し上げます。(2023年10月2日加筆)