お金も時間もタイトな中、「天地人」でビジネスを推進することで得られた最大のメリットは、「受け手側を意識するようになったこと」だと百束氏は繰り返す。

「研究成果を誰に渡すのか、自分自身の満足感や達成感だけでなく、我々のアウトプットがデータをもらってくれる人のインプットとして適切なのか、さらにはJAXAがやっている研究が将来の宇宙開発にとって必要なのか考えるようになりました」

 この視点は「最近、何に困ってますか」とクライアントに話を聞きに出向くことから生まれた。

「議論の中で潜在的な課題を洗い出し、成功をきちんと定義する。たとえば収穫できたが農薬がかかってしまうとか、成長しすぎて収穫にコストがかかりすぎる場合は成功と定義するか否か。明文化されていない課題や成功事例をクリアにする作業が一番楽しいが、けっこう大変」

 今後の方向性は大きくふたつ。天地人コンパスのサービスの質を高めること、そしてゼスプリのようなパートナーを多く見つけること。「社員10人の給与を払えるように、資金繰りも含めてお金を回していく形にしたい」(百束氏)。

「衛星可愛い」だったエンジニアが、ユーザーに寄り添い「衛星データが使われたかどうかなんて知られなくていい」というほどの180度の変化。ビジネスにおいて、ユーザーの視点に立つのは当たり前のような気がするが、人工衛星分野で世界最先端の研究開発に邁進していた技術者時代にはなかった考え方。それがユーザーに寄り添い、徹底的に議論する中で生まれたこと自体、画期的なのかもしれない。

 変わらない点もある。「自分たちのビジネスや技術が世の中をどう変えていくかを見たい。それは技術者時代からの根本的な興味であり、モチベーションです」(百束氏)。

 まずは「宇宙の目」から産み出された国産キウイが、どこで育ち、どんな味がするのか。味わう日が楽しみでならない。