さらに、農業にはもうひとつの社会課題もある。

「農業に関わる若い人が減っている。高齢者が引退する中でどうやって続けていくのか。胸を痛めている農業法人の経営者がおられるし、自治体や農林水産省など政府レベルでも問題意識がある。これら社会課題にスピード感をもって対応していくのは、我々のようなスタートアップの使命だと感じています」

JAXAで週5日働きながら

 ところで、百束氏はJAXA主任研究員。スタートアップ「天地人」の取締役という立場とどう両立させているのだろうか。

「週5日JAXAの仕事をしています。今のJAXAでの仕事は、衛星開発の経験を新しい開発プロジェクトに生かす技術コンサルティングアドバイザーのような仕事です。一方、天地人では意思決定したり、顧客である企業を訪ねお話したりする必要がある。そんな時はJAXAの休みをとっています」

 具体的には百束氏はJAXAの「JAXAベンチャー」という制度を使って兼業している。JAXAベンチャー担当のJAXA新事業促進部事業推進課武田隆史氏によれば「JAXAベンチャー制度は2004(平成16)年からあり、2015(平成27)年に第1号のベンチャーが認定されてから2019年末までに7社が認定されています」とのこと。目的はJAXAの知的財産やJAXA業務で得た知見など、研究開発成果の活用であり、社会還元だ。JAXAベンチャー制度では、JAXA職員はベンチャー事業のために休職してもいいし、百束氏のように兼業してもいい。

JAXA新事業促進部事業推進課の武田隆史(たけだ・たかし)氏。

 二足のわらじを履くことで、JAXAの仕事へのフィードバックは?

「お金や時間の感覚が変わりましたね。JAXAでは数百億円の事業を手掛けていたが、天地人はだいたい自分のお金(笑)。時間に対するコスト意識も高くなりました」(百束氏)