「衛星可愛い」から「お客さまのニーズ把握」へ

 そもそも、百束氏らはどういう経緯で「天地人」を起業したのか。話は、長く衛星開発に携わってきた百束氏が抱いた「もやもやとした疑問」から始まる。

「NASAと共同で開発した降水観測計画GPM主衛星や、温室効果ガスを観測する衛星『いぶき』の全体設計を担当し、10年以上にわたって人工衛星から地球の状態を見る『リモートセンシング』分野に衛星開発者として関わる中で、衛星利用の仕方にもっと広がりがあるのではないかと感じ始めていたんです。具体的にはデータ利用は科学だけでなく、ビジネスにも繋がれば、より大きなインパクトを社会に与えられるのではないか、と」

 百束氏が関わったNASAやJAXAの衛星は大型衛星だ。衛星データを使うユーザーは?

「基本的には科学者が多い。例えば、研究で早くデータが欲しいという先生方や、気象庁が数値天気予報に使いたいなど。大口のターゲットがいないと、国の事業として数百億円の予算を投じられない。一方で新しいユーザーを見つけないといけないという議論はよく(JAXA内で)されますが、技術開発の現場にいるとなかなかきっかけがないし余裕もなかった」

 問題意識を抱えていた百束氏が具体的に動き出したのは2017年ごろ。衛星開発の先が見えた時期だ。人づてに農業IoT事業を東大発ベンチャーとして推進する繁田亮氏と桜庭康人氏(現代表取締役)と出会い、さっそく衛星データ×農業の勉強会を始めた。

「彼らと議論する中で『お客さんがどんな問題やニーズを持っているのかをしっかり把握するのが大事』という話が目から鱗でした。それまでは『自分が開発した可愛い衛星のデータを使ってほしい』というプロダクトアウトの視点で、ユーザー側の視点を強く意識していなかった」(百束氏)。

 ゼスプリとのヒアリングでは、日本国内でキウイを作りたいという希望を持ちながら、土地探しに苦労していることが分かった。

「衛星データを使えば地球全体のデータが得られ、ニュージーランドと日本からそれぞれ気象データを取り寄せる必要もない、と話すとかなり興味を持って下さった。議論の過程でビジネスが見えてきたのです」