起業しようと決めた3人は、あるビジネスコンテストに応募することを決意。内閣府が主催する宇宙ビジネスのアイデアコンテスト「S-booster」だ。入賞すれば賞金だけでなく、事業化に向けた支援が得られる。

「自分たちのアイデアを認めてもらえるかどうか。受賞できないようなら起業は諦めようと思ったんです」。つまりは試金石だった。ふたを開けてみれば審査員特別賞、ANAホールディングス賞、JAL賞とトリプル受賞。「アイデアの新しさや市場性をいろいろな目から『いい』と評価していただけたと実感が持てました」。そして2019年5月末に「天地人」は会社登記し、百束氏は取締役に就任した。

S-Booster2018でトリプル受賞。(画像提供:天地人)

農業だけでない土地選定エンジン活用

 2019年には、ゼスプリとのプロジェクトが内閣府の「宇宙利用モデル実証プロジェクト」に採用された。ゼスプリ以外にも、「天地人」が進めるプロジェクトは数件あり、農業から他分野に広がりを持ち始めているという。

「土地探しは、必ずしも農業分野だけではありません。たとえば、自然エネルギーを使って発電する際に、どこに風車や太陽電池パネルを置けばいいかという課題にも気候風土が関わります。晴天の多い場所はどこか、逆に暑すぎると機器が損傷するとか。農業以外にも多様なシーンでビジネス上の判断が必要とされるでしょう」

 衛星データを活用し、最適な場所で経済活動や文明活動が営まれるようになれば、世界中の無駄が無くなり、人類の文明を最適化することができると百束氏らは考えている。

「衛星可愛い」と開発者目線だった百束氏が、利用者目線に変わって実感したのは「衛星データが間違いなく使える」という手応え。土地評価エンジンは幅広い分野で活用可能だが、「話を聞きたい」とアプローチがあるのはやはり農業分野が一番多いという。

「近年、頻発する台風や大雨などに直面され、『気象の変化とともに年々収穫できる地域が変わっているのではないか』『いま何かやらないと数年後が怖い』と自然環境と対峙する必要性や危機感を、農家の経営者の皆さんが強く持たれている。さまざまなデータや新しい技術が解決につながるのではないかと、アンテナをすごく張られています」