長谷川:ありがとうございます。昨年の世界肺癌学会では、患者アドボカシー*3関連のセッションを、会期中の3日間に渡ってやっていました。そこで一番びっくりしたのが「国々の違いをふまえて、大きな目的をひとつ見つけよう」というセッションでした。
南米の国の中には、そもそも病気になったら医者にかかろうという意識がなく、「『あなたにはお医者さんにかかる権利がある』ということを知りましょう」という活動をしているという報告もありました。米国では高額薬剤の話、ヨーロッパだとEUの国と国の間にアクセスに関しての格差があるなど、国によって様々でした。日本がいかに恵まれている国なのかもよくわかりました。
しかし、そういった違いがある中でも共通しているのが、「肺がんになる人を少なくしたい」「自分の病気に対する薬が出て欲しい」というものでした。それを世界で共有できたのは新鮮でしたし、うれしかったですね。また、このセッションが、医師の応援によって学会の一部として行われていることをとてもありがたいなと思いました。
*3:患者の立場に立って、政策や制度面を含めた問題解決に取り組むこと。
光冨:たしかに、世界における日本の肺がん医療は非常に恵まれています。世界肺癌学会の役割とすれば、遅れている国を引き上げることが重要です。世界の医療のレベルは不均一に分布しています。日本は、それが高いところで均一であるという特徴があります。すぐに世界で日本流を取り入れられるとは思いませんが、「それができている国がある」と伝えることが日本の役目のひとつかもしれません。
長谷川:世界肺癌学会に限らず、学術集会でいつも一番に思うのは、「先生たちって、こんなにがんばって勉強しているんだ」ということです。立ち見でもいいからと、セッションに参加されている医師もよく見かけます。診察室では見ることのない、裏側の努力というのが伝わってくるんですよね。ほかの患者さんたちにも、ぜひそれを知ってもらいたいと思います。
光冨:その言葉は、私も医師の一人としてとてもうれしいです。これからも協力して医療をいい方向へ持っていきたいですね。
* * *
今回は、学会と患者会が協働することで成果を得た事例や利点などをお話いただきました。次回は、お二人も要望書提出などで尽力されている「新薬の承認」や、「コンパニオン診断の問題点」など、少し深めのお話をうかがいたいと思います。
光冨 徹哉
近畿大学医学部 外科学講座 呼吸器外科部門 主任教授/日本肺癌学会 理事長
1980年九州大学医学部卒。1986年九州大学大学院医学研究科修了、医学博士。1988年九州大学医学部第二外科助手。1989年米国国立癌研究所にて肺癌の分子生物学的研究に従事。1991年、産業医科大学第二外科講師、九州大学第二外科助教授を経て、1995年愛知県がんセンター胸部外科部長、2006年同副院長、2012年近畿大学医学部外科学講座呼吸器外科部門主任教授。肺癌の外科的治療を専門とするほか分子標的治療にも造詣が深い。日本肺癌学会理事長、日本呼吸器外科学会、日本臨床腫瘍学会各理事。2017年10月からは世界肺癌学会の理事長。
長谷川 一男
日本肺がん患者連絡会代表・NPO法人肺がん患者の会ワンステップ代表
神奈川県在住。46歳。肺がん。ステージ4。2010年に発症し、現在7年目。ワンステップが大切にしていることは「仲間を作る」と「知って考える」2ヶ月に1回のペースでおしゃべり会開催。HPとブログにて、様々なテーマで情報発信している。全国11の肺がん患者会が集まった「日本肺がん患者連絡会」所属・代表。2016年4月、NHK ETV特集でその闘病生活が放送された。世界肺癌学会にてペイシェントアドボカシーワード2016受賞。日本肺癌学会ガイドライン外部委員。
柳澤 昭浩
日本肺癌学会Chief Marketing Adviser/がん情報サイト「オンコロ」コンテンツ・マネージャー
18年間の外資系製薬会社勤務後、2007年1月より10期10年間に渡りNPO法人キャンサーネットジャパン理事(事務局長は8期)を務める。先入観にとらわれない科学的根拠に基づくがん医療、がん疾患啓発に取り組む。2015年4月からは、がん医療に関わる様々なステークホルダーと連携するため、がん情報サイト「オンコロ」のコンテンツ・マネージャー、日本肺癌学会チーフ・マーケティング・アドバイザー、株式会社クリニカル・トライアル、株式会社クロエのマーケティングアドバイザー、メディカル・モバイル・コミュニケーションズ合同会社の代表社員などを務める。
*本稿は、がん患者さん・ご家族、がん医療に関わる全ての方に対して、がんの臨床試験(治験)・臨床研究を含む有益ながん医療情報を一般の方々にもわかるような形で発信する情報サイト「オンコロ」の提供記事です。