翻ってサイエンスではこういう進化と発達を考える学問は「あかちゃん学」と呼ばれています。
私たち音楽家にとって重要な赤ちゃん学のポイントは、二足歩行ができるようになると首がまっすぐになるので、普通の発声ができるようになり、言葉を覚え、歌が歌えるようになるという部分にあります。
それ以前のあかちゃんは「なん語」と言って、むにゃむにゃした発音しかできません。私たちの作曲指揮研究室ではこれに関連する仕事がありますが、ここで触れる紙幅はありませんので、別論といたしましょう。
ご存知のように生まれたばかりの赤ちゃんは立つことができません。首も据わっていない。これは、今後大きくなっていくだろう頭蓋に合わせて「座る」必要があるから、柔軟なまま誕生してくるわけですね。
馬でもトムソンガゼルでも、キリンでもインパラでも、サバンナを俊足で駆け巡る草食動物の赤ちゃんは、生まれた直後から立ち、歩き、そして走り、必要があれば肉食の天敵から逃れ去ります。彼らは軒並み小さな頭をしている。これと対照的と思っていただければと思います。
乳児の発達と指差し
人間の赤ちゃんは9か月齢ほどになると「ハイハイ」から「つかまり立ち」そして「二足歩行」へと発達していきます。
生物の系統進化としてはサルからヒトに進む段階で、実際、先ほど記したように、この時期の赤ちゃんは人間の「声」を獲得し、母音の分節があり、そのうえで「言葉」を発し、「言語」を理解できるようになっていきます。
それ以前の赤ちゃんにはミニマムの自他の別以外、分別がほとんどありません。
さて、赤ちゃんがつかまり立ちや二足歩行を始めるのと並行して、脳も大きく成長し、複雑な行動、運動が可能になっていきます。その成長の最初の段階で見られる、重要な「指標」の1つに「指差し行動」があります。
10~11か月齢ほどで見られ、最初のお誕生日あたりまでにはきちんとものを指で差し、それを見据え、またお母さんに「これ、これ」と指し示すこともできるようになっている。個体差の大きい現象なので一概には言いにくいですが、こんなふうに言って大きく外れないでしょう。
人間の乳幼児が、単に泣くのでなく、主として母親/養育者との間で、世界に存在する第3の事物を関連させる、最初のコミュニケーションの1つが「指差し行動」にほかなりません。