(篠原 拓也:ニッセイ基礎研究所主席研究員)
ロシアがウクライナに軍事侵攻を開始してから5カ月になる。首都キーウ周辺の攻防、東部ドネツク、ルハンシク2州のロシアによる制圧、黒海の封鎖など、戦況は変化しており、現在のところ停戦の見込みは立っていない。戦争の長期化は避けられない情勢だ。
戦争が長引く背景として、ロシア政府に対する国民の高い支持が続いていることも挙げられる。政権の暴挙を容認し続けるロシア国民のマインドを理解するには、人々の心身の健康状況を知る必要があるかもしれない。今回は、データをもとにロシア国民の健康について見ていきたい。
ロシア人男性の平均寿命は世界183カ国中118位
まず、ロシア人の平均寿命から見ていくことにしよう。世界保健機関(WHO)の2019年のデータによると、男性は68.18歳で世界183カ国中118位。女性は78歳で74位となっている。大統領のプーチン氏は1952年10月生まれで現在69歳なので、すでに男性の平均寿命を超えていることになる。ちなみに日本は、男性が81.49歳で2位(1位は81.75歳のスイス)、女性が86.94歳で1位とトップ層に位置している。
ロシアの60歳の人の平均余命をみると、男性は16.8年で120位。女性は22.19年で70位。こちらでも日本は、男性が23.95年でオーストラリアとスイスに次いで3位、女性が28.56年で1位と最上位層にいる。
ロシアの平均寿命は、女性は世界の中位より上にいる一方で、男性は中位以下となっている。特に、高齢者の平均余命では、さらに順位を下げている。ロシアの平均寿命は医療制度が発達した先進国の中では突出して短いのだ。
新生児死亡の抑制を図ってきたロシア政府
ロシアでは、長らく平均寿命の短さが社会問題の1つとされてきた。政府は新生児の死亡をできるだけ抑えるために、超未熟児を治療する集中治療室を備えた周産期センターを各地に設立してきた。その結果、2010年からの9年間で平均寿命が5歳以上伸びている。
また、世界銀行のデータによると、ロシアの合計特殊出生率(15歳から49歳までの女性の年齢別出生率を合計したもの)は1990年代に急低下して1.2を下回った。しかし、周産期センター設立などの取り組みを進めた結果、2010年代には1.7台にまで上昇し、その後やや低下して2020年には1.5程度となっている。ロシアでも少子化は進んでいるが、日本ほどの状態にはなっていないといえる。
いまロシアでは、2025年までのヘルスケア発展戦略の一環として、18歳以上の国民を対象とした定期予防診断、40歳以上を対象とした健康診断を義務付ける国家プロジェクトが進められている。ただし、高齢者が対象の健康対策は道半ばといえる。