一般に、いわゆる「がん」は悪性腫瘍のことを指しています。腫瘍そのものは、細胞が異常増殖するもので、子宮筋腫やおでき、脂肪腫(こぶ)などは良性腫瘍の代表例です。しかし、これが悪性の場合、増殖スピードが速く、周囲の組織や臓器、血液やリンパ系にも侵入し、転移する可能性が高くなります。これが「がん」です。そのため早期に良性腫瘍なのか悪性腫瘍なのかを見極めることが重要です。

(※ がんの中でもとくに増殖が速く転移が起きやすい性質のものを「悪性度の高いがん」と言うことがありますが「悪性腫瘍(=がん)」とは別の概念です。)

 ただし、前述の通り、甲状腺がんは他のがんに比べ、成長スピードが遅く、生存率も高いといった特徴があります。この先も、随所で甲状腺がんの特性を踏まえながら、福島における調査結果を見ていくことにします。

2. 福島における甲状腺がんの検査結果

 2016年2月15日の第22回県民健康調査検討委員会とそれ以前に公表された、これまでの検査結果*6,7をまとめたものを表1に示します。

表1. 福島の甲状腺がんの検査結果(第20回および第22回「県民健康調査検討委員会」*6,7より)。※ 1 誤差範囲は、ポアッソン分布を仮定し95%信頼区間とした。 ※2 累積の有病率は、がん患者合計数166人を、1巡目と2巡目の検査期間通しての平均受診者数で割って求めた。平均受診者数は、1巡目と2巡目それぞれの受 診者数を検査期間の長さで重みをつけて平均した値とし、以下のように求めた。平均受診者数=(300476人×2.5年+236595人×1.75年)÷(2.5年+1.75年)=274172人。 ※1および2 年齢ごとに異なる受診率を考慮すると、これらよりもやや大きな値となる。
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 1巡目の検査では約30万人を検査して、そのうち115人が「がんないしがん疑い」という診断を受けました。このとき、検査対象者は原発事故当時0~18歳の約37万人で、受診率は81.7%でした。

 2巡目の検査では事故後1年以内に生まれた子どもが新たに検査対象に追加されました。しかし、受診率は62.1%と大幅に低下し、検査を受けた人は約22万人と減少しました。それでも新たに51人が「がんないしがん疑い」の診断を受ける結果となりました。(1巡目で「がんないしがん疑い」とされた115人は、2巡目の検査は受けていません)。

 この結果を、福島県の対象者数で表すと(全対象者が検査を受診した場合)、1巡目は115÷0.817=141人、2巡目は51÷0.621=82人となります。これが福島県の「有病者数」ということになります。

 同様に、この結果を100万人当たりで表した「有病率」は、1巡目の検査では383 [人/100万人]、2巡目の検査では216 [人/100万人] となります。ここまでがこの調査から得られた実測値です。

3. 「がんないしがん疑い」の人数をどう見るべきか?

 検査によって得られた福島県における甲状腺がんの患者数、つまり「がんないしがん疑い」であると診断された人の数は、通常の場合と比べて大きいのでしょうか?