1. なぜ「甲状腺がん」を注視するのか?
2011年3月の福島第一原子力発電所事故により、広範囲におよぶ放射性物質汚染が発生しました。多数の住民が故郷を追われ、今なお約10万人*3の方々が避難生活を強いられています。
福島県は県民健康調査を実施し、県民の健康状態を把握して、病気の予防と治療につなげる取り組みを行っています。特に事故による放射線被ばく線量の推定と、18歳以下の県民全員に対する甲状腺がんの検診は、チェルノブイリ原発事故の経験を踏まえたものです。
1986年のチェルノブイリ原発事故の後、原発のあったウクライナ(旧ソ連)に隣接するベラルーシをはじめ、周辺地域の子どもたちが相次いで甲状腺がんを発症する事態が起こりました(図1)。
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甲状腺は、のどぼとけの下、気管の前にあり、ホルモンを分泌する役割を担っています。甲状腺ホルモンはヨウ素を材料にして作られるため、甲状腺にはヨウ素が蓄積することが知られています。そのため、吸い込んだ放射性ヨウ素(ヨウ素131)が集まることで、特にたくさんの放射線を、甲状腺は受けることになり、発がんのリスクが高まる恐れがあるのです。
実際に、チェルノブイリにおけるその後の調査では、放射性物質による汚染度の高い地域ほど、多くの小児甲状腺がんが発生していることが示され、多発した小児甲状腺がんの原因が原発事故に伴う放射線被ばくであることが明らかにされています*5。
このような過去の事例を踏まえて、福島県県民健康調査においても、原発事故当時18歳以下であった県民全員を対象に、事故の約7カ月後の2011年10月から甲状腺がん検査が開始されました。まず1巡目の検査(先行調査)を、およそ2年半かけて実施し、その後2014年4月から、2巡目の検査(本格調査)が、2年ほどかけて行われました。
検査ではまず、超音波エコーを使って、甲状腺を観察します。そこで5.1mm以上の大きさの結節(しこり)、あるいは20.1mm以上の大きさののう胞(液体が溜まっている袋)が見つかった場合は、さらに精密検査を行います。
精密検査では、尿検査・血液検査の後、必要に応じて、「穿刺(せんし)吸引細胞診」を行います。この検査では針を刺してそこから直接細胞を採取し、良性の腫瘍なのか、悪性腫瘍(がん)の疑いがあるかどうか判定します。最終的ながんの診断は手術後の検査で確定します。