また検診ではなく、通常診療で見つかった甲状腺がんにおいて、リンパ節転移の割合が、大人の場合20~50%であるのに対して、子どもの場合40~90%と、小児甲状腺がんではリンパ節転移の頻度が高いことが知られています*27。
これらのことから、福島の検診でみつかった小児甲状腺がんについては、たとえリンパ節転移や外部浸潤を伴ったものであっても、そのほとんどは潜在がんであるとみなすのが適切であるという考えが示されています*28。
(2)2巡目で初めて発見されたがんは「急成長」したのではないか
1巡目の検査(2011年10月~2014年3月)で一通り甲状腺がんを検出した後、2巡目の検査(2014年4月~2015年12月)で、新たに少なくとも51人の「がんないしがん疑い」が見つかったことを、急激に成長する新たながんが発生している証拠とみる意見も出されています*29。
1巡目の検査で早期発見がんや潜在がんも全て検出されていたとすると、2巡目の検査で検出される腫瘍はすべて、1巡目の検査終了後から2巡目検査のあいだの約2年間に急成長したもの(新たに有病状態になったもの)に限られます(図5)。
2巡目検査の実施時期は、事故後おおむね4年であることから、検査対象者の検査時年齢は22歳以下とみなすことができ、全国統計*9から得られる平均発症率は1巡目のときよりもやや大きい、5人/100万人・年(年間100万人あたり5人)を用います。
ここから、2年間に自然発生する甲状腺がん「有病率」を、全国統計から得られる平均発症率から見積もると、5[人/100万人・年]×2[年] = 100万人あたり10人と見積もることができます。
実際に2巡目検査から得られた有病率は 100万人あたり216人だったので、自然発生するであろう甲状腺がんの数の実に22倍ものがんが、この2年間に新たに現れたことを意味しています。
特に、そのうちのおよそ半数は、1巡目調査では結節ものう胞も全く見つかっていなかった人たち*7で、2年間のうちに5.1mm以上にまで成長したと考えられます。このことは、がんの成長がきわめて緩慢であるとする、早期発見がんや潜在がんの考え方とは相いれません。
これに対し「2巡目検査で見つかったがん症例は、単に1巡目検査での見落としであって、1巡目検査の前からあったものだ」という意見もあります。実際に2巡目で「がんないしがん疑い」と診断された51人の、1巡目の結果は、
・5.1mm以上の結節あるいは20.1mm以上ののう胞が見つかった人:4人
・5mm以下の結節あるいは20mm以下ののう胞が見つかった人:22人
・結節やのう胞が見つからなかった人:25人
というものでした。このことから、およそ51人のうちのおよそ半数である25人は、1巡目の最初に行われた超音波エコーで見落とされ、4人は精密検査時にがんであることが見落とされていた可能性があることになります。
(3)子どもの検診で「潜在がんは検出されていない」
これまでの剖検や超音波エコー検査により、甲状腺には高い頻度で潜在がんがみられることが明らかになっていますが、すべて成人のデータであることに注意しなければなりません*15,26。10年間で甲状腺がんの発症率が15倍にもなった韓国のケースでは、がん検診費用を国が負担する*30主に40代以上におけるがん発症率の増加が寄与していると考えられます。
18歳以下の年齢層においても、一般的に甲状腺に潜在がんが生じるのかどうか、生じるならばどのくらいの頻度でみられるのかは、まだ分かっていません。それは超音波エコーを使った子どもに対する集団検診の事例が、福島県民健康調査以前ほとんどなかったためです。
しかしながら実は、過去のベラルーシにおける被ばくしていない子どもたちの甲状腺検診プログラムの結果から、顕著な潜在がんの存在は否定されていることが指摘されています*10。