そして福島県の甲状腺検査でも、そのような潜在がんが超音波検査によって拾いだされたに過ぎないのではないかという考えが示されています*16,17。
実際、日本における甲状腺がんの発症率は、過去40年間で3倍ほどに増加しており、その増加には超音波装置などの画像診断法の発達が寄与していると考えられています*18。
しかし、発症率が増加しているにもかかわらず、死亡率はほとんど変化していない*18ことから、新たに多数見つかるようになった「甲状腺微小乳頭がん」の多くは、命に関わるものではなく、潜在がんと同様のものである可能性が高いと考えられます。
同様のケースが極端に現れているのが、近年の韓国における甲状腺がん症例の急増傾向です。韓国では、国が推進するがん検診プログラムの開始以来、甲状腺がん検診受診率が上昇すればするほど、甲状腺がんの発症率も相関して上昇する状況が起きています*19。
韓国では過去10年間ほどで、甲状腺がんの発症率は15倍にもなりましたが、その間、甲状腺がんによる死亡率は変化していません。よって、甲状腺に関しては治療が不要な潜在がんが広く検出されるようになったにすぎないとされています*19,20。
福島県における甲状腺がん調査でも似たような状況であるとするならば、1巡目の受診率は81.7%と非常に高い水準になっているため、潜在がんが通常の数十倍の頻度でみつかるのも不思議でないという解釈が成り立ちます*16,17。
8. 「早期発見」「潜在がん」では説明できない、3つのこと
一方、早期発見がんや潜在がんとみなすだけでは、福島の子どもたちに見つかった甲状腺がんの多さを説明することはできないとする意見も出されています。以下では、3つの論点から考察します。
(1) 「90%以上のリンパ節転移」をどう捉えるべきか
これまでに福島県県民健康調査における甲状腺がんの検査で「がんないしがん疑い」と診断された方の7割がすでに手術を受けています。そして2014年度末までに、福島県立医科大学付属病院で実施された97名の手術症例のうち、術前診断の段階で、リスク要因*21,22がみられず経過観察の検討がなされたのは3名のみでした(この3名の方も本人の希望で手術を実施しています)。
そして、術後の病理検査によって88名(全体の91%)にリンパ節転移、甲状腺外浸潤、遠隔転移のいずれかが認められ、それらのいずれもないものが8例(8%)、そして良性が1例 (1%)という結果であったと報告されています*23。
このことから、今回の検査で見つかった甲状腺がんのほとんどは、今の診療ガイドラインに従うならば、比較的短期間のうちに治療する必要のあるレベルであったと評価*23,24され、早期発見がんや潜在がんではなかったとの主張があります*25。
ただし、リンパ節転移や外部浸潤のある場合でも、そのほとんどは生涯を通じて症状が現れない「潜在がん」とみなすべきだという主張もなされています。
過去に、香川県立がん検診センターで行われた1万1189人の成人女性に対する甲状腺がん検診では、3mm以上のがんが全体の3.5%の人から見つかり、そのうち約42%がリンパ節転移、16%が外部浸潤していたという報告があります*26。つまり検診でしか見つからない、成人の微小甲状腺がんにも、リンパ節転移や外部浸潤が一般的にみられることを示しています。