スパイ防止法の制定
(1)全般
高市氏は首相就任前の2025年5月20日に、「スパイ防止法がないために、反スパイ法で拘束された邦人が中国にいても、スパイの交換という手段が使えない」と法整備の必要性を強調した。
つまり、高市氏は、スパイ防止法を制定することで、国際的な常識に基づいた防諜体制を整備し、必要に応じて「スパイ交換」という外交的選択肢も持てるようにすべきであるという立場である。筆者も全く同感である。
(2)秘密保全体制の強化
さて、スパイ対策には2通りの方策がある。
一つは、一般に秘密保全といわれる予防措置である。予防措置には標的(人的、物的)の防護強化や外国情報機関員等の合法的な諜報活動の監視などがある。
もう一つは、外国情報機関員等、いわゆるスパイの非合法の諜報活動を探知し、スパイを逮捕する制圧行為である。この制圧行為の法的根拠となるのがスパイ防止法である。
さて、我が国では近年、スパイ対策の一環として秘密保全体制の強化が図られてきた。
2001年10月29日に成立した改正自衛隊法により防衛上、特に秘匿を必要とする秘密を漏洩した場合の罰則が強化される等の措置が講ぜられた。
また、2007年8月9日に策定された「カウンターインテリジェンス機能の強化に関する基本方針」に基づき、「政府機関の情報セキュリティ対策のための統一基準」や「秘密取扱者適格性確認制度」などが政府機関において統一的に運用されている。
さらに2013年12月6日、機密情報を漏らした公務員らへの罰則強化(10年以下の懲役=現拘禁刑)と適正評価の制度を定めた特定秘密保護法が成立した。
この特定秘密保護法の成立により、秘密取扱者適格性確認制度の法制化と機密漏洩の罰則強化が実現し、我が国の秘密保全体制は以前に比べて格段に強化された。
上記の「防衛秘密」も「特定秘密保護法」が成立したことによって、「特定秘密」に移行した。
以上の対策は、いずれも予防措置である。
逆に言えば、我が国では戦後から今日に至るまで制圧行為の強化がほとんど図られてこなかった。
このため、我が国には他国のようにスパイを直接取り締まる法律がなく、司法当局は他国と比べ、厳しい対応を迫られている。
(3)スパイ防止法の必要性
外交、防衛および経済等の重要政策に関する情報の漏洩は国家の安全保障や経済的利益等に損害を与える。
また、最先端技術等の企業秘密の漏洩は相手国の軍事戦闘能力を短期間で増強するとともに相手国の経済的競争力を強化し、ひいては自国の国防力と経済力の相対的弱体化を招くことになる。
前述したが、外国情報機関員等、いわゆるスパイの非合法の諜報活動を探知し、スパイを逮捕する制圧行為の法的根拠となるのがスパイ防止法である。
さらに、スパイ防止法の必要性は上記の実質的な利害のほかに以下のような様々な側面がある。
1つ目は、スパイ防止法の制定は世界の常識である点だ。スパイ活動を防止するための法的手段を整備することは国際社会の常識である。
2つ目は、スパイ行為に対する抑止力である。外国から日本は「スパイ天国」であると侮られるようでは、スパイをのさばらせることになるであろう。これは主権国家の威信にかかわる問題である。
3つ目は、諸外国からの信頼の獲得である。軍事情報の交換や国際共同開発・生産が進展する中で、諸外国の信頼を得るためには現行の分かりにくい個別法での対処でなく、包括的なスパイ防止法が不可欠である。