インテリジェンス機関の活動を監視するシステムの構築

(1)インテリジェンスは毒である

 元内閣情報調査室長の大森義夫氏は、その著書『日本のインテリジェンス機関』の中で、次のように述べている。

「インテリジェンスは毒である。(中略)しかし、これは社会の安全を守るために必要な『毒』である。それを容認する以上、『毒』を用いるには高度のエキスパティーズ(専門技能)が必要である」

「毒は一匙でなくてはならない。『毒』を解毒する社会的装置を備えなくてはならない。民主主義の枠内に毒を使いこなすシステムを構築する工夫が必要である」

 以下に述べる英国のインテリジェンス機関に対する監視システムは、民主主義の枠内で「毒」を使いこなすシステムである。

(2)英国のインテリジェンス機関に対する監視システム

 本項は、MI5ホームページを参考としている。

 英国においては、インテリジェンス機関の活動に対し、閣僚による監視、議会による監視、および司法による監視という多層的な監視構造が制度化されている。

ア.閣僚による監視

 1996年に制定された改正1989年セキュリティ・サービス法(Security Service Act 1989)によってMI5は、国務大臣、実際にはMI5のために国会で答弁する内務大臣の権限の下に置かれている。

 また、本法は、MI5がいかなる政党の利益のためにも行動しないことを確実にするための長官の責任を定めている。

 また、法的根拠はないが、MI5をはじめとするインテリジェンス機関の活動を常時チェックするために、内閣に「インテリジェンスに関する閣僚委員会」(Ministerial Committee on the Intelligence Services:CSI)が設置されている。

 メンバーは首相(議長)、副首相、内務大臣、外務大臣、国防大臣、および財務大臣である。

 同様に、これら閣僚を補佐するとともに、インテリジェンス機関の支出と活動を監視するために、インテリジェンス担当事務次官を議長とする「インテリジェンスに関する事務次官委員会」(Permanent Secretaries’ Committee on the Intelligence Services:PSIS)が設置されている。

イ.議会よる監視

 3機関(注1)に対する議会による監視は、1994年インテリジェンスサービス法(Intelligence Services Act 1994)で創設されたインテリジェンス保安委員会(ISC:Intelligence and Security Committee)が行う。

 同委員会は、首相によって指名される超党派の9人の議員で構成される。同委員会に付託された権限は、3機関の支出、管理、および政策を調査することである。

 しかし、1994年インテリジェンスサービス法(Intelligence Services Act 1994)(以下「旧法」)のインテリジェンス保安委員会(ISC)は、委員会活動の独立性には懸念があった。

 そこで、2013 年司法・保安法(Justice and Security Act 2013)(以下「新法」)により、インテリジェンス保安委員会(ISC)を改組して議会の委員会とし、その法律上の監視対象を①3機関以外の政府機関によるインテリジェンス関係活動および②重要な国益に関するインテリジェンス機関の過去の作戦活動に拡大した。

 新法では旧法と異なり、インテリジェンス機関の長は、大臣が拒まない限り委員会の求めに応じ情報を提供する義務を負う。

 また、その委員は、旧法では首相が野党第1党の党首と協議後に任命したが、新法では当該協議後に首相の指名により各議院が任命することとなった。

(注1)英国インテリジェンス機関の中枢であるMI5、MI6および政府通信本部(GCHQ)は、「The Agencies」(インテリジェンス3機関)と称されている。

ウ.司法による監視

 以前の司法による監視は、2000年調査権限規制法(Regulation of Investigatory Powers Act 2000)に基づき任命された「情報サービスコミッショナー」(Commissioner for the Intelligence Services)、「通信傍受コミッショナー」(Commissioner for Interception)の2人のコミッショナー、および調査権限審判所によって行われていた。

 現在は、2016年調査権限法(Investigatory Powers Act)に基づき、捜査権限コミッショナーオフィス(Investigatory Powers Commissioner’s Office:IPCO)と調査権限審判所(Investigatory Powers Tribunal)によって行われている。

(ア)捜査権限コミッショナーオフィス

 捜査権限コミッショナーオフィスは、MI5および他の組織による捜査権限の行使を監督する独立した機関である。

 同オフィスに、調査権限コミッショナー(Investigatory Powers Commissioner:IPC)と司法コミッショナー(Judicial Commissioners)が配置されている。

 同オフィスは、両コミッショナーの職務をサポートし、監査や令状審査を実務的に行う組織である。

●調査権限コミッショナーは、首相によって任命される。

 コミッショナーの任務は、法執行機関や情報機関による通信傍受、データ取得、機器干渉などの捜査権限が、合法的、必要かつ比例的に使用されているか監視・監督する。

●司法コミッショナーは、首相によって任命される。

 コミッショナーの任務は、重大な捜査手法が適法かつ必要最小限であることを審査し、人権を守る役割を担っている。

(イ)調査権限審判所

 調査権限審判所は、3機関が行った行為または通信の傍受に関する個人からの訴えを調査するために2000年調査権限規制法に基づき創設された。

 調査権限審判所は、1998年の人権法に基づく訴えを調査し、訴訟を審問する。

 2006年には、2006年テロ法(Terrorism Act)の施行などに伴い、審判所が扱う対象や、情報機関に認められる調査権限の範囲がさらに具体化・強化された。