相手・手段・工数で変わる“線引き”をどう設計するか

 つながらない権利の法制化については、厚生労働省が設置した労働基準関係法制研究会で議論が交わされてきました。そこで示されたのは、法制化ではなくまずはガイドラインの策定を検討するという方向性です。

 つながらない権利を考える上でややこしい事情の一つとして、やりとりする相手・連絡手段・対応の程度などによって状況が大きく異なる点が挙げられます。「何を」「どこまで」制限すればよいのかを整理するのは容易ではありません。

 やりとりする相手が日ごろ仲の良い同僚であれば大して神経質になる必要はないのかもしれませんが、上司から連絡が入れば緊張感は大きく変わってきます。また、取引先からの連絡であれば何か問題でも起きたのかと身構えてしまいそうです。

 連絡手段がメールやチャットであれば、空いた時間を使ってこちらのペースで目を通すことができます。しかし、電話の場合は改めて折り返すとしてもやりとりする時間は拘束されることになります。加えて、相手との時間を調整するためのやりとりも別途必要かもしれません。

 そして最も問題なのは、対応にかかる工数の程度です。その場で瞬時に答えられる簡単な問い合わせであれば、大した負担ではないでしょう。しかし、上司から「先日の報告について確認したいことがある」などと込み入った話になりそうな連絡を受ければ、内容を思い出したり手帳を確認したりと頭をフル回転させ、仕事モードに切り替える必要があるかもしれません。

 かつては、勤務時間外につながらないことの方が当たり前でした。家に電話がない時代であれば連絡をしようにも手段がありませんでしたし、電話が普及しても家族で共用している固定電話に職場から連絡が入るのは、よほどの緊急時くらいでした。

 それが変わっていった転換点が、ポケットベル(ポケベル)の登場です。ポケベルが鳴って職場の番号が表示されれば、外出先でも公衆電話を探して折り返さなければならなくなりました。「4903○○○○××××」などと、職場の電話番号の先頭に49(至急)が付いていれば緊張感は一気に高まり、休日気分など一気に吹き飛ぶことになります。

 さらに、携帯電話の普及が変化を決定づけました。電話は共用ではなく個人ごとに所持して外出先でも使用できるものとなり、つながっていない世界は終わりを告げて、どこにいてもつながる世界が到来しました。