“つながる社会”で守るべきは遮断ではなく「判断の主導権」

 とはいえ、会社支給のポケベルや携帯電話であれば、勤務時間外に電源を切っておけばつながりを断つことができます。しかし、インターネットが普及して、いまや子どもでもスマートフォンを所持する、つながっているのが当たり前の世界です。

 いつでもどこでもSNSで情報を受発信できる環境が日常生活の中に組み込まれたことで、多くの人にとってつながりを完全に遮断することが難しくなりました。また、テレワークする人も増えたため、職場にいなくてもメールやチャットなどで連絡はつきやすくなっています。

 そんな便利さがあだとなり、有休取得中に職場からの連絡に気づかないでいると、「SNSに楽しそうな写真を投稿してるのに、連絡はスルーかよ」などと思われてしまいかねない窮屈さも生じるようになりました。

 テクノロジーの発達によってインターネットと生活とが密着し、つながっていない世界からつながっている世界へと社会構造が変化した時代に求められる権利とは、つながりを断つというより、勤務時間外に連絡を受けても拒否できる権利だと言えます。

 基本的に勤務時間外は働く必要などないはずですから、法制化するまでもなく拒否することは可能なはずです。それなのにつながらない権利が問題になるのは、拒否することがマイナス評価につながりかねないからに他なりません。

 つながっていない世界では、連絡をとること自体が難しいのでレスポンスはなくて当然でした。ところがつながっている世界だと連絡がとりやすいだけに、レスポンスしないと相手からの連絡を意図的に無視して、拒否したように映るケースが生じやすくなります。

 実際にはメールがうまく受信できなかったり、他のメッセージに紛れてしまったりして連絡に気づかないことはあり得るものの、意図的な無視と受けとられるのはリスクです。勤務時間外であっても、メールやチャットが来ていないかと気になる人はいると思います。

 また、勤務時間外でも連絡を受けた方が良い場合があることも、拒否しづらい理由の一つです。

 例えば、想定外のトラブルが発生して緊急で対応しなければ大きな損害が発生したり、人に危害が及んでしまうようなケース。あるいは内容確認するだけで済むような連絡であれば、先にチェックを済ませておくことで出勤した後の仕事が楽になるといったケースもあるかもしれません。

 冒頭で紹介した連合の調査にもあったように、つながらないことによる不安もある中で、完全につながりを遮断することにも一定のリスクがあります。その点を踏まえると、必要なのはつながらないかどうかより、つながっている世界であることを前提に、対処するか否かの判断については連絡を受けた側に委ねられるレスポンス主導権の付与です。