BYD「シーライオン7」/急激に進歩したクルマ作りで日本メーカーの「難敵」に
日中関係の険悪化や中国企業の債務問題等、何かと不穏な話題が多い中国の製品ではあるが、クルマ単体で見ると、本当に侮れない出来であったということで、テスラ「モデルY」と迷った末にセレクトしたのがBYDのシーライオン7だ。
BYD「シーライオン7」(筆者撮影)
全方位で隙のない作り込みがなされているというわけではなく、取りこぼしも見受けられる。にもかかわらずシーライオン7の印象が良かったのは、電気的な性能が優れていることと、快適かつネアカな室内空間設計を持つこと。これにより、長距離ドライブ時も大船に乗ったような気分に浸れるのだ。
LFP(リン酸鉄)リチウムイオン電池をバックボーンとした電気的な性能、とりわけ急速充電の受け入れ性は素晴らしいものがある。
高性能充電器を用いたテストでは30分で50kWh以上、走行距離にしておよそ300km分の充電量を確保できた。操縦性は同社の低車高セダン「シール」に比べると甘いが、絶対性能は十分。乗り心地は柔らかめで快適性は高く、クロスオーバーというキャラクターにマッチしたものだった。
室内は十分な静かさを持ち、乗り心地は快適。サウンドシステムは欧州車によくみられるディナウディオ製だが、ドアや室内トリムのデッドニング(ビビリ防止)が思ったより入念に行われていて、少々ボリュームを上げたくらいでは音が乱れない。
室内のアンビエントはダッシュボード上を光が色調を変えながら揺らぐ演出を持つなど派手なもの。これが中国のノリかと、カルチャーの違いを味わうこともできる。
BYDのクルマ作りが急激に進歩したのはここ4、5年のことで、長期品質などクルマに求められる重要なスペックのいくつかはまだ実証されていない。もし今後5年、10年と経過した時にそれらに問題がないということになると、いよいよ手の付けられない難敵になる可能性がある。日本メーカーにとっても良い刺激になることだろう。
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ここまでCOTYテンベストカーに選ばれなかった中から5モデルをピックアップしてみたが、ひとつ言えるのはコモディティ化が進んだ今日においても、実際には作り手、使い手双方の価値観によって千差万別、個性豊かという状態がいまだ保たれているということだ。
来年も世界のメーカーがハイブリッドカー、PHEV(プラグインハイブリッド車)、BEV、そしてFCEV(燃料電池電気自動車)と、多彩なクルマを出してくることだろう。また運転支援システムなどの新技術に関しても、何らかの大きな動きがあるかもしれない。どういう展開を見せるのか、楽しみなところだ。





