キャデラック「リリック」/アメリカンプレステージをまとう最新BEV

 全幅2m、全長5m、自重2.6トンという巨大なクロスオーバーBEV(バッテリー式電気自動車)。現地アメリカではこの上に「エスカレードIQ」というSUV型のBEVがあるが、車両総重量が4トンもあり、3.5トンまでの普通乗用車の範疇を超えてしまう。ここ日本においては、リリックは十分フルサイズの威容を放っていると言える。

キャデラック「リリック」(筆者撮影)

 リリックをチョイスしたのは、往年のキャデラックが体現していたアメリカンプレステージの香りがちょっぴり戻ってきたという印象を抱いたからだ。

 エクステリアは2002年デビューのセダン「CTS」に始まった新世代キャデラックデザインのテイストをリファインしたものだが、ボディの厚みがあるクロスオーバースタイルとしたことで、今年トランプ大統領が来日した際に報道などを通じて多くの人が目にした大統領専用車「キャデラック・ビースト」のミニチュアのような雰囲気が出てきた。

 インテリアデザインはエキセントリックさはなく、今どきの上級車によくある無難な仕上がり。タッチもいにしえのアメリカの高級車のような、何もかもが柔らかいという感じではない。

 にもかかわらずアメリカらしさを濃密に感じさせられた最大の要因は光の演出だ。サテンクロームの加飾の配置が実に巧みで、昼は採光性の良い室内の中でラグジュアリー感を静かに主張し、夜はダウンライトとアンビエントライトの光を強調する。その演出の巧みさはさすがラウンジ文化の花咲くアメリカならではのセンスと感じられた。

 キャデラックはもともとリンカーンと大統領専用車を分け合ってきたアメリカンプレステージブランドで、メルセデスベンツやBMWとも格違いの存在。また技術面でも世界最高峰だった。だが、二度の石油ショック以降迷走を続けて自らそのブランド力をぶち壊しにしてしまった。

 このリリックとて、昔日の圧倒的栄光を取り戻すにはほど遠いのだが、プレステージカーの作り手としてのセンスとプライドを完全に失ったわけではないと感じさせるだけのものは持ち合わせていた。

 世界的な文化の均質化が進み、クルマの類型化も強まる一方という今の時代において、自分の価値観やセンスを強く主張するクルマは高級車分野においても貴重だ。その意味でリリックはもっと注目されてもいいモデルだと思った次第である。