フォルクスワーゲン「パサート」/Dセグ“最後の砦”が磨いた走り

 世界的にSUVが売れ筋となり、低車高モデルの存在感が希薄になる一方という世相において、欧州Dセグメントの最多販売モデルだったパサートもセダンが廃止され、現行の第9世代はステーションワゴンのみとなってしまった。

フォルクスワーゲン「パサート」

 そんなパサートをセレクトした理由は、やや皮肉なことではあるが、Dセグメント低車高モデルの“最後の砦”となったことの緊迫感がクルマづくりにおいてプラスに作用していたことにある。

 欧州で2023年、日本では2024年初冬に発売された第9世代パサートは、低車高、低重心という動的質感の面では有利な特性に甘えるのではなく、実際に顧客がそれを大きなメリットと感じられるような操縦性や乗り心地を何としてでも提供するのだという悲壮な決意がにじみ出た作りになっている。

 乗り心地は滑走感に優れていた。ゴツゴツ感のあった旧型の第8世代から大きく進化し、第6世代あたりが持っていた素晴らしい快適性が戻ってきたという感じである。その素晴らしい乗り心地と高速道路や山岳路での高い操縦安定性やドライバーの意思に忠実なハンドリングが両立しているのも見事なところだ。

 世界の多くのメーカーが低車高モデルの開発を放棄し、残ったメーカーも同格のSUVより安価なことをバリューとするためにコストダウンを進めて味をどんどん落としてしまっている中、クルマへの理解度の高いユーザーが低車高モデルの方がいいと思って選べるクルマに仕立てるのは相当な意思力が必要だ。それをやりおおせた数少ないモデルであることはもっと知られてもいいと思った。