2025年9月5日、竜巻の被害に遭った牧之原市の住宅地 写真/共同通信社
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(白石 拓:作家・サイエンスライター)

竜巻の規模の大きさは被害状況で推定

 今年(2025年)9月5日の正午過ぎ、静岡県内各地で相次いで突風が吹き荒れました。気象庁は、そのうち6つの事象について、竜巻が発生したと発表しました(図表1)。

 とくに猛烈だったのは、12時50分頃牧之原市から吉田町にかけて発生した竜巻です。推定風速は75m/sに達し、日本における観測史上最大級の突風が吹きました。時速に直すと270km/hという新幹線並みのすさまじさです。

 なお、今回のように同時期もしくは短期間に複数の竜巻が多発することを米国では「トルネード・アウトブレイク」と呼びます。「アウトブレイク:outbreak」とは「勃発」とか「大流行」といった意味です。

【図表1】2025年9月5日に静岡県内で発生した突風事象 
7つの突風事象のうち6つは竜巻、1つはダウンバーストまたはガストフロントによる 出典:気象庁・報道発表「台風第15号に伴い発生した突風について」
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 日本では竜巻の規模の大きさを「日本版改良藤田(JEF)スケール」で表します。そもそも「藤田(F)スケール」とは、1971年に米シカゴ大学の藤田哲也博士が考案した突風の風速測定指数です。竜巻などの突風は局所的にごく短時間だけ発生するので、リアルタイムに計測することは非常に困難です。設置してある既存の観測用風速計で風速を測ることはほぼ不可能なため、藤田博士は住家や自動車、列車、森林などの被害状況から風速を推定する方法を考え出しました。

 藤田スケールは、F0〜F5の6段階に分けられ、最大のF5は風速117〜142m/s、最小のF0は風速17〜32m/sです。藤田スケールは世界で広く用いられています。

 しかし、米国で考案された藤田スケールは竜巻の規模や社会環境面で事情が異なる日本には合わない面があるため、2015年に気象庁は日本の生活環境に合わせた被害指標を設定し、翌年から使用し始めました。これがJEFスケールです。

 今回の最大風速75m/sはJEF3(風速67〜80m/s)、藤田スケールでもF3(風速70〜92m/s)に該当します。日本ではこれまでJEF4以上を観測したことがなく、JEF3は史上最大級の風速になります。

 では、JEF2〜3がどれくらいの威力かというと、JEF2で木造住宅がゆがみ、コンクリートブロック塀が倒壊、鉄筋コンクリートの電柱が折れ、普通・大型自動車が横転します。そしてJEF3になると、木造住宅が倒壊し、マンションのベランダの手すりが変形し、工場や倉庫の屋根がはがれ、道路のアスファルトがはがれて飛び散る、といった惨状になります。

 なお、図表1中にある「ダウンバースト」「ガストフロント」とは竜巻と同様に突風が吹く現象ですが、竜巻のような渦を巻かない異なる現象です。この2つについては回を改めて紹介します。