アメリカで巨大な竜巻が発生する理由と日本の傾向

 日本に比べて竜巻が多発しているイメージが強いのがアメリカです。イメージだけではなく、現実にアメリカは世界有数の竜巻発生国として知られています。発生数はこれまで年間約1000件程度とされてきましたが、近年は増加傾向にあり、2003〜2024年の平均では1248件、2024年には1年間に1796件も発生しました。日本に比べると40倍以上の多さです。ただし、アメリカは国土も広いので、単位面積当たりでの竜巻発生数は日本の数倍程度になります。

 しかし、アメリカの竜巻の恐ろしさは数よりもその威力にあります。前述の藤田スケールでF4(93~116m/s)、F5(117~142m/s)クラスの怪物竜巻が吹き荒れることもあり、日本の竜巻に比べて桁違いの破壊力をもつものがしばしば出現しています。

 このように、アメリカで巨大な竜巻が頻繁に発生する原因は、広大な平原とそこに多方向から吹き寄せる風の収束にあります。アメリカ中部のテキサス州からオクラホマ州、カンザス州、ネブラスカ州にかけての広大な平原地帯は、「トルネードアレイ(竜巻街道)」と呼ばれる竜巻の発生頻度が突出して高い地域です。日本にはない規模の広い平原は、風の流れを邪魔する障害物がなく、強風が吹きやすい環境です。

 そこに、四方八方から異なった性質の風が吹き寄せます。とくに顕著なのは、図表5に示した3方向からの風で、メキシコ湾からの暖かく湿った南風(緑色)、ロッキー山脈からの暖かく乾いた西風(橙色)、カナダからの冷たく乾いた北風(水色)です。これらがトルネードアレイに吹き寄せぶつかったとき、竜巻の発生確率が高まります。

【図表5】アメリカの竜巻街道に吹き寄せる風 ダン・クラッグス, CC BY-SA 3.0, via Wikimedia Commons

 日本では山地が多く、アメリカのように大規模に強風が吹く環境はありません。高い山々に囲まれた盆地などの閉鎖地形では竜巻が発生しにくいため、その差が日米における竜巻発生数や威力の違いに表れています。

 日本で竜巻発生数が多い都道府県(図表2)を改めて見直すと、沖縄県がトップなのは、台風が頻繁に襲来することが要因であると容易に想像できます、そして、北海道が次に多い理由は、そもそも他の都府県より何倍も面積が広いことに加えて、秋から初冬にかけてシベリア高気圧の張り出しを原因とする寒冷前線や低気圧の通過が増え、大気が不安定になることが多い点が挙げられます。

 さらに、全国的に見ると冬季には竜巻は少ないのですが、日本海でJPCZ(日本海寒帯気団収束帯)が生じると、しばしば竜巻が発生します。日本海寒帯気団収束帯とは、シベリア高気圧から吹く北風が、中国と北朝鮮の国境地帯にそびえる高い山で左右に分岐した後、風下の日本海上で再び合流しぶつかり合う場所を言います。この風の収束によって強い上昇気流が生じて、日本海側地方に大雪を降らせるのですが、このとき竜巻が発生することがあるのです。

「竜巻」の語源は、天に駆け昇る竜の姿に見立てたところからきています。竜巻は非常に局地的で短命なので、被害は他の天災に比べて限定的です。しかし、もし竜巻に巻き込まれると台風を凌駕するすさまじい突風に命が危険にさらされることもありますので、気象庁から注意が喚起されたら、竜に飲み込まれないように、速やかに堅牢な建物か地下施設に待避してやり過ごすのが賢明でしょう。

(編集協力:春燈社 小西眞由美)