竜巻が発生する気象条件「上昇気流」と「シアー」
周知のとおり、竜巻は激しく渦を巻く上昇気流ですが、上昇気流と言えば真っ先に浮かぶのが積乱雲です。事実、竜巻の上空には積乱雲が発達しています。
湿った暖かい風場(空気の塊)と冷たい風場がぶつかると、大気が不安定化し対流が活発になり、暖気が上昇し、積乱雲が発生します。その典型例が前線や台風で、竜巻は前線や台風の近くでよく発生します。とくに台風の接近時にはトルネード・アウトブレイクが発生することがあります。
実は9月5日の12時頃、静岡県に台風15号が迫っており、関東地方の北には停滞前線が伸びていました(図表3)。つまりこの時間、東海地方から関東にかけて竜巻が発生する可能性が高まっていたと言えます。
では、竜巻は具体的にどのようなときに発生するのでしょうか。竜巻が発生する条件には、前述した上昇気流が強まることに加えて、顕著なシアーの存在が不可欠となります。この2つの気象条件が重なったとき、竜巻が発生する確率が高まります。
「シアー」とは「剪断(せんだん)する」という意味ですが、気象学では風の向きや速さが異なる風場の境界を指します。シアーではしばしば風の渦が生じます。
上下で風向や風速が異なる「鉛直シアー」については、本連載の第10回「降り止まない豪雨の恐怖…命に危険が及ぶ「線状降水帯」の季節がやってきた」で紹介しました。そこでは、鉛直シアーにおいて上層の風が積乱雲を吹き流し、線状降水帯が形成される現象にフォーカスしたのですが、シアーは竜巻のきっかけをつくることもあるのです。
実際に竜巻が発生する過程にはさまざまなパターンがあります、しかし、風の渦の起原についていえば、大きく分けて、①積乱雲の中で竜巻の種ができる場合と、②地表近くで竜巻の種ができる場合の2通りがあります。
①のケースでは、積乱雲の直下にある鉛直シアーで生じたロール状の水平な風の渦が竜巻の種となります。それが上昇気流によって垂直に起こされ、下方向に細く伸びていきます。渦は細くなると回転力が強くなるので、渦は威力を増し、地表に達すると竜巻になります。
②のケースでは、地表近くで左右から暖気と寒気がぶつかったときなどに水平シアーが生じ、そこに発生した鉛直方向の風の渦が竜巻の種になります。それが上昇気流によって上方に細く伸ばされて威力を増し、竜巻になります。
このようにして発生した竜巻の存続時間は、日本では数十秒から数分程度と短く、それが竜巻が発生したかどうかの判断を難しくする要因となっています。また、移動速度は平均するとおよそ時速は35kmで、移動距離は3kmほどです。そのため、竜巻による被害は非常に局地的です。
ただし、強い竜巻ほど存続時間が長く移動速度も速くなります。過去には約15分存続し、時速100km以上で50km以上移動した例もあります。
ところで、シアーでなぜ風の渦が発生するのかといえば、「エントロピーは増大する」という自然法則の効率的な過程と考えることができます。エントロピーとは「乱雑さ」と訳されることが多いのですが、この場合は分子の拡散による「均質化」と言い換えたほうがよいでしょう。
性質の異なる風場がぶつかると、互いに混じり合い、エントロピーが増大します。このとき、渦を巻いたほうが分子の拡散が効率的に進むのです。これは、熱いお風呂の湯に水を足すときに、かき混ぜたほうが湯と水がよく混ざり、湯が早く均質にぬるくなるのと同じです。

