「コリオリの力』により、北半球の低気圧は反時計回りに回転し(左)、南半球の低気圧は時計回りに回転する(右)
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(白石 拓:作家・サイエンスライター)

地震・火山噴火・台風のエネルギー比較は意外な結果

 我が国にとって、甚大な被害をもたらす自然の脅威のワースト3といえば、地震、火山噴火、台風でしょう。このうち、地震と火山噴火は地球内部のエネルギー、台風は太陽エネルギーの発散現象といえます。

 では、地震、火山噴火、台風のエネルギーの大きさはどれくらいでしょうか。例として、それぞれ史上最大規模の事象である、東日本大震災(2011年)、富士山の宝永大噴火(1707年)、伊勢湾台風(1959年)の推定エネルギーを図表1に示しました。

【図表1】地震、火山噴火、台風のエネルギー
エネルギーの単位は「仕事」の単位と同じJ(ジュール)。1J=1N・m(ニュートン・メートル)。広島型原爆(リトルボーイ)のエネルギーは、TNT火薬16kT(キロトン)=約6.7×10^13J
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 地震や火山より台風のほうがエネルギーは大きいことを意外に思われたかもしれません。台風のエネルギーが大きい理由は、地震・火山は蓄積していたエネルギーが放出されるだけなのに対して、台風の場合は発生から消滅まで継続的に海水面からエネルギーが補給されるという違いにあります。

 この台風が持つエネルギーの大半は熱として大気中に放出され、宇宙へ逃げていきます。わずかな量だけが、空気の運動エネルギーに変わって強風が吹いたり、積乱雲を発達させて雨が降ったりします。

 図表1中の「伊勢湾台風」についていえば、全熱エネルギーのうち運動エネルギーに変換されたのは数パーセント(約1〜3×10^17J)であり、その量は富士山の宝永大噴火のエネルギーと同程度だったと試算されています。

 台風のエネルギー源は、太陽光によって温められた海水の熱です。熱帯域の暖かい海水面からは、盛んに水が蒸発し、空気に水蒸気が大量に供給されます。と同時に、海水面に接する空気は温められて膨張し、軽くなるために上昇し始めます。これが台風の“芽”である熱帯低気圧になります。台風の発生条件は海水温が26.5℃以上とされています。

 暖かくて湿った空気が上昇すると、上空で冷えて、空気中に含まれている水蒸気(気体)が水滴(液体)に変わり、積乱雲が発生します。気体が液体に変わることを凝縮(または凝結)といいますが、このとき凝縮熱が空気中に放出されるため、空気が暖められてさらなる上昇力を得、積乱雲が発達します。つまり、もとは海水の熱だったものが姿を変えて凝縮熱になり、台風のエネルギーとなるのです。ちなみに、1gの水蒸気が水に変わるときに放出される凝縮熱は 2260Jです。

【図表2】台風の成長
出典:JAMSTEC「地球温暖化で、台風の強風域が拡大」

 台風が発達すると中心に雲のない「目」(図中では「眼」)ができます。これは、水蒸気がほぼすべて水滴や氷の粒に変わったために凝縮熱の供給がなくなり、空気が冷えて重くなって下降気流が発生しているところです。下降気流では、地表に近づくにつれて温度が上がるので、湿度が低くなり、雲が消えて晴れ渡ります。

 また、目の周りには「壁雲(かべぐも)」と呼ばれる、積乱雲が垂直方向に発達した領域があります。壁雲には強い上昇気流があり、壁雲の下の地表ではこの台風における最大級の暴風雨が吹き荒れます。