津波警報を受け、消防署の屋上に避難した人たち(北海道むかわ町、7月30日) 写真提供/共同通信社
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(白石 拓:作家・サイエンスライター)

地震の揺れもなかったのに突然の津波警報発令

 7月30日の朝、テレビで突然津波警報がアナウンスされたことに、大半の人が驚いたことでしょう。地震の揺れもなかったのに津波? 驚きと同時に、14年前の東日本大震災(2011年)の際に日本列島を襲った大津波の記憶がよみがえったに違いありません。

 今回警報が発令された津波は、カムチャツカ半島近くの千島海溝付近で発生したマグニチュード8.8(M8.8)の巨大地震(以下、カムチャツカ半島沖地震と表記)によるものでした。

【図表1】カムチャツカ半島沖地震の震央(震源)
千島海溝周辺におけるマグニチュードM8以上の地震の震央分布(今回の震央は黄色星、1792-2007年の震央は赤色星。ただし、深発地震は除く) 出典:地質調査総合センター「2025年7月30日に発生したカムチャツカ半島付近の地震(M8.7)に関する情報」

 地震が起こった千島海溝は、日本海溝と同様に、北米プレート(大陸プレート)に太平洋プレート(海洋プレート)が沈み込んでいるプレート境界です。千島海溝と日本海溝は地質的につながっていると考えられていますが、北海道北部から千島列島にかけての大陸プレートを「オホーツク海プレート」として、北米プレートと区別するモデルもあります。

 千島海溝の長さは約2200km、最大の水深は約9600mです。日本海溝と同様に過去に何度も巨大地震が発生している領域です。

 カムチャツカ半島沖地震は、典型的なプレート境界型地震で、震源の深さは約20kmと浅いものでした。この「震源が浅い」ことが津波を生んだ要素の1つですが、これについては後述します。

 いずれにしろ、日本海溝付近で起こった東北地方太平洋沖地震(東日本大震災、M9.0)に迫るほどの地震の規模だったので、震源に近いカムチャツカ半島沿岸ではかなり揺れました。

 しかし、日本では北海道の一部地域で震度2を、日本列島の各地で震度1を記録したものの、本州のほとんどの地域は無感でした。このように日本の揺れが小さかったのはもちろん震源が遠かったためです。北海道の根室市から震央(震源の真上にあたる海底面上の位置)までの距離はおよそ1500kmもあり、青森市から鹿児島市までの直線距離約1400kmよりも離れていました。

 しかし、その遠い震源からも津波は押し寄せました。津波がなぜこんなにも長距離を伝わるのか。その理由は津波がふつうの波とは異なる独特の構造を持つことに由来しています。