イチゴの王様
信太郎は、新宿で声を張り上げ、サングラスや手袋、財布などの小物雑貨を売る大道商人を見て、自分もこれをやろうと決意する。
有り金をかき集めて小物を仕入れ、信太郎ら5人は、デパートの入口を借りて、必死に売った。
そのおかげで、僅か3カ月で債務の500万円を完済できたという(上前淳一郎『サンリオの奇跡 夢を追う男たち』)。
借金問題が落ち着くと、信太郎はビーチサンダルに目を付ける。
平たく言うと「ゴムぞうり」であるが、これが「オリエンタルサンダル」として、海外から注文が途切れないことを知った信太郎は、綺麗な花柄を付けることを思いついた。
これは国内外で大当たりし、山梨シルクセンターのヒット商品第一号となる。
このビーチサンダルのヒットにより、信太郎は「デザインという付加価値により、モノはまったく違う売れ方をする」ことを実感した。
やがて、ある取引業者が持っていた小物にイチゴの絵がついているのを見て、「かわいいな」と感じた信太郎は、いつくかの商品にイチゴの絵を付けてみた。
それらが好評だったため、信太郎はありとあらゆる雑貨にイチゴの絵をつけたところ、売れに売れた。
これらを卸していた百貨店には、イチゴの小物たち目当ての少女たちが殺到したという(以上、辻信太郎『これがサンリオの秘密です。』)。
喜んだ信太郎は、「いちごの王様」と称するようになったという(やなせたかし『アンパンマンの遺書』)。
勢いづいた信太郎は、今度はサクランボのキャラクター化を試み、シリーズを展開する。
だが、なぜかサクランボのキャラクターは見向きもされなかった。
サクランボで失敗した信太郎は、今度はイラストレーターの水森亜土に依頼して作った愛らしい少女のキャラクターを、小物やコーヒーカップなどに付けて売り出していく。
水森亜土のキャラクターは大人気を博し、50種類以上の商品に付けられ、販売された。
キャラクターを多種類の商品につけて販売する「キャラクター商法」の、本格的なスタートである。
水森亜土のキャラクターを用いた陶磁器の売れ行きがよかったことから、信太郎は陶器展を開いていた、柳瀬嵩のもとを訪れ、キャンディの容器のデザインを依頼した。
依頼を受け、柳瀬嵩がデザインした麦わら帽子の形をしたキャンディの容器を信太郎は気に入り(以上、梯久美子『やなせたかしの生涯 アンパンマンとぼく』)、二人はこの先も仕事をともにすることになる。