日産本社ビルの売却想定価格は?

 日産は今のところ売却後も本社機能を現状のまま残すことを考えているという。いわゆる「セールスアンドリースバック」という方式だ。

 売却した後はテナントとして賃料を新オーナーに払い続けるということになる。数年前に電通が港区汐留の本社ビルを売却したのと同じ方式だ。

 本社ビル周辺の賃料相場はどの程度だろうか。三鬼商事のオフィスマーケットデータによれば、本社ビルが建つみなとみらい地区の25年4月におけるオフィス平均賃料は坪当たり2万0935円、エリア全体の空室率は10.11%である。

 本社ビルの購入を検討する投資家は、購入後、日産から得る賃料収入で運用するため、期待できる利回りがどのくらいかで判断する。

 本社ビル全体のうち、専有面積というテナントに賃貸できる部分の面積は、詳細は不明だが、専有率をこのクラスのビルで標準的な60%相当とすると専有面積は16,700坪程度となる。

 日産が全床を借りるかもしれないが、一応マーケットの空室率にならって建物の平均空室率を10%とする。

 仮に日産に相場である坪21,000円で賃貸した場合の年間賃料は空室率10%を考慮して38億円程度だ。建物の運営には経費がかかる。これも通常のオフィスビルの経費率25%ほどかかると想定すると、本社ビルを取得して日産に貸す投資から得られる営業利益(NOI)は28億4000万円程度となる。

 投資家が今回の投資で期待する利回り(NOI利回り)を4.0%程度とすると想定購入価格は710億円ほど。最近の不動産価格の上昇を見込んで期待利回りを3.0%にすると価格は950億円となる。

 つまり日産横浜本社ビルの売却想定価格は700億円から900億円程度であることが予想できる。

 周辺取引事例では、みなとみらい33街区にある日産本社ビルとほぼ同規模のみなとみらいセンタービルは、2022年9月にヒューリックから国内系特別目的会社(SPC)に約1000億円で売却されているが、利回りは3%程度と推測される。

 またJREITの日本ビルファンドが同地区にある横浜三井ビルを2025年3月、431億9000万円で三井不動産から取得しているが、還元利回りは3.5%と発表されている。

 もちろん入札等になると価格がヒートアップする可能性もあるが、みなとみらい地区は都心5区のオフィスビル平均空室率が3%台であるのに比べて10%と、好調なエリアとは言い難い。

 電通本社ビルは2000億円台後半であったとのことだが、日産横浜本社ビルの売却価格は800億円から900億円程度に留まるものと考えられる。
 
 では、追浜工場を閉鎖後、売却する場合の価値はどの程度になるだろうか。