
(井上 久男:ジャーナリスト)
ホンダがEV戦略を大きく見直す。三部敏宏社長は5月20日に記者会見し、2030年度までにEV関連に10兆円投資する目標を7兆円に引き下げることを表明した。同時に30年度のEV販売目標計画も200万台から75万台程度に落とした。
ホンダは昨年、EV関連への投資計画を5兆円から10兆円に倍増させる方針を打ち出したばかりだったが、わずか1年で大幅修正を迫られた。その背景には、EVの実需が落ち込んでいることや、米トランプ政権の誕生により、ホンダにとって生命線である米国市場でEVの伸びが不透明なことがある。
たとえば、カリフォルニア州が35年までにガソリン車販売禁止の規制を導入するはずだったが、トランプ大統領がそれを撤回させようとしている。米国ではカリフォルニア州がガソリン車に対して厳しい規制を導入すれば、それに追随する他州も出ると見られたが、そうした動きも不透明になっている。
加えて、ホンダにはソニーグループとの合弁や、米ゼネラルモーターズ(GM)との共同開発でのEVを抱えているが、現状ではEVは収益が出にくく、赤字になっていると見られる。多く売れば売るほどホンダの四輪事業の収益力を圧迫することになるため、計画を落とさざるを得ない局面にあるのだろう。
ホンダはEV投資計画の軌道修正に伴い、カナダに約1兆5000億円を投じて電池からEVまでの一貫生産を28年度から開始する計画だったが、2年程度先送りする。トランプ氏の関税政策は、「USMCA(米国・メキシコ・カナダ協定)」にも影響を与えているため、カナダを米国へのEV輸出拠点にする計画に狂いが生じている。
こうしたEV戦略の見直しを受けて、ホンダはハイブリッド車の強化に軸足を移す。すでにホンダは昨年12月、新型ハイブリッド技術を公表し、20年代後半から市場投入する方針を示し、ホンダ社内からは「トヨタのハイブリッドに勝てるくらいのいいものができた」との声も出ている。