生き残りの鍵は日産との統合再交渉か

 ホンダの四輪事業の将来はこのままでは厳しい。そのことは三部社長以下の経営陣が最も分かっているはずだ。日産との経営統合を目指したのもホンダのその危機感からで、三部社長自身が経営統合交渉入りを発表した昨年12月23日、社内向けには「今の延長線では四輪事業の単独での生き残りは厳しい」と説明している。

 どう考えてもホンダの四輪事業の生き残り策で展望が開けてくるのは、日産との経営統合ではないか。前述した次世代ハイブリッドシステムやそのパワートレインを日産と共通化していくことで、投資回収上の利点もある。ホンダが、日産との経営統合で中期的に1兆円の営業利益押上げ効果を見込んでいたのも、次世代のEV分野だけでの協力だけではなく、足下のビジネスでの相乗効果も期待していたはずだ。

 日産は内田誠前社長時代に、意思決定が遅く、踏み込んだリストラ策にも躊躇(ちゅうちょ)していたことが一因となり、ホンダとの統合交渉が破談になった。業界では「日産が詫びをいれてきたら再交渉してもいいとホンダは考えているのではないか」という見方も出ている。

 しかし、日産のエスピノーサ新社長がそうした動きをするかはまだ見えない。むしろホンダ側が自らの四輪事業の生き残りをかけ、日産に再アプローチする局面ではないか。そうしないと、日産はファンドなども含めて他に組む相手を見つけるだろう。

 ホンダは過去の経緯やメンツにこだわっている場合ではない。もちろん日産にも同じことが言える。

井上 久男(いのうえ・ひさお)ジャーナリスト
1964年生まれ。88年九州大卒業後、大手電機メーカーに入社。 92年に朝日新聞社に移り、経済記者として主に自動車や電機を担当。 2004年、朝日新聞を退社し、2005年、大阪市立大学修士課程(ベンチャー論)修了。現在はフリーの経済ジャーナリストとして自動車産業を中心とした企業取材のほか、経済安全保障の取材に力を入れている。 主な著書に『日産vs.ゴーン 支配と暗闘の20年』(文春新書)、『自動車会社が消える日』(同)、『メイド イン ジャパン驕りの代償』(NHK出版)、『中国発見えない侵略!サイバースパイが日本を破壊する』(ビジネス社)など。