写真提供/ナイキジャパン

(スポーツライター:酒井 政人)

『Breaking2』の衝撃

 8年前の出来事だが、強烈な記憶として残っている。2017年5月にイタリアのモンツァ・サーキットで行われた『Breaking2』だ。

 前年のリオ五輪で男子マラソンの金メダルに輝いたエリウド・キプチョゲ(ケニア)ら3人のランナーがフルマラソンの「2時間切り」に挑戦。そしてキプチョゲが世界中を熱狂させたのだ。

 筆者はライブストリーミングで観戦したが、凄まじいレースだった。複数のペースメーカーが交代で引っ張り、5km14分07~17秒という安定したペースで進み、中間点を59分57秒で通過する。30~35kmは5km14分27秒まで落ちたものの、ラスト2.195kmを6分21秒でカバー。当時の世界記録(2時間02分57秒)を2分32秒も上回る2時間00分25秒で走破したのだ。

 そしてナイキが仕掛けたイベントがマラソンという競技を一変させる。

『Breaking2』に向けて開発された“厚底シューズ”が超高速化を実現。翌年(18年)の5月にキプチョゲを直接取材する機会があり、実際のレースでも「2時間1分は出せるかな」と話していたが、その通りになったのだ。

 キプチョゲは2018年9月のベルリンで従来の世界記録を1分以上も短縮する2時間01分39秒をマーク。2021年東京五輪で連覇を果たすと、翌年のベルリンで世界記録を2時間01分09秒に塗り替えた。

 現在の世界記録は2023年10月のシカゴでケルビン・キプタム(ケニア)が打ち立てた2時間00分35秒になる。厚底シューズが登場して、男子の日本記録が4度も塗り替えられたように、マラソンのタイムが大幅に向上している。そのキッカケとなったのが『Breaking2』なのだ。

 そして今年の6月下旬、新たな伝説が生まれるかもしれない。