スターリンの本性を見誤ったルーズベルトの二の舞い

「現在状況は全く異なる。プーチンは西側に支援される旧ソ連諸国さえ打ち破ることができない。現在の西側は1945年当時よりロシアに対してはるかに強大だ。しかし分裂しているのは西側でありトランプ氏による米外交の逆転で利益を得ているのはプーチンだ」(ブーヴィエ氏)

 ブーヴィエ氏は出版に合わせた外国特派員協会(FPA)の会見で筆者の質問に「現在、世界は完全に不要で生産的でない貿易戦争の真っ只中だ。論理的ではない報復的で恣意的な貿易障壁は大きな国際的な緊張を引き起こしている」と答えた。

「貿易戦争自体が国際的な紛争に発展するとは思わない。1人の侵略者が成功するともう1人の侵略者が勇気づけられる。英国が1935年にイタリアのエチオピア侵攻を阻止していればアドルフ・ヒトラーは翌36年のラインラント進駐を再考した可能性がある」(ブーヴィエ氏)

「プーチンが抑止され、西側がウクライナ問題で明確なレッドラインを引けば中国の習近平国家主席も領有権争いのある島々や台湾について再考を迫られる。西側が分裂すれば反自由主義陣営が勢いづく。グローバルな危機に西側がどう対応するかが非常に重要だ」(同)

 侵略者プーチンと取引することはスターリンの本性を見誤ったルーズベルトの二の舞いを演じる恐れがある。「同盟国と戦うより悪いことは同盟国なしで戦うことだ」というチャーチルの言葉をトランプ氏が理解する日は果たして来るのだろうか。

【木村正人(きむら まさと)】
在ロンドン国際ジャーナリスト(元産経新聞ロンドン支局長)。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『EU崩壊』『見えない世界戦争 「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。