厚生年金の半分は国家に「奪われている」
橘:私が年金の仕組みについて考えはじめたのはいまから30年くらい前で、その当時、厚生年金の基礎年金部分と、国民年金の関係がどれほど調べてもわかりませんでした。そこであれこれ考えて、この2つが同じものだと気づきました。
厚生年金の1階部分(基礎年金)と自営業者などが加入する国民年金はつながっていて、いわばどんぶり勘定になっている。その結果、国民年金の赤字は厚生年金の保険料で埋め合わされているのです。
日本では消費税が8%から10%に2%上がるだけで大騒ぎしましたが、厚生年金の保険料率は約15年間で3%(2009年:15.7%→2025年:18.3%)も上がっています。健康保険料や介護保険料も同じですが、これらは国会の審議を経ずに厚労省の一存で上げられるので、「ステルス増税」に使われています。

日本では所得税の実効税率は2006年まで一貫して引き下げられてきましたが、それにもかかわらず毎月の手取りが減っているのは、年金・健康保険などの社会保険料がこっそり引き上げられてきたからなのです。
「ねんきん定期便」がすべての被保険者に送られるようになった2009年には、私はすでに自営業者になっていたのですが、SNSでサラリーマンが受け取るねんきん定期便には「被保険者負担額」として本人が払った分しか記載されておらず、会社負担分の存在はどこにも書かれていないことを教えてもらいました。
その当時は、会社員が自営業者よりも有利なのは、会社が年金・健康保険の保険料の半額を払ってくれるからだといわれていました。ところが厚生年金に関しては、「会社負担分」としてあなたが払った保険料が消えてしまっているのです。
なぜこんな姑息なことをするのか。その理由は「ねんきん定期便」を見ればわかります。ほとんどの人は、将来受け取ることのできる年金の概算がこれまでの納付総額のおよそ倍になっているはずです。ところがその納付総額額には会社負担分が含まれていないのだから、実際に収めた額の半分でしかない。
自己負担分に会社負担分を加えた保険料の実際の納付総額(正しい数字)で考えれば、年金の運用利回りはほぼゼロで、定年後に戻ってくるのは払った分だけになってしまいます。新卒で入社した年に収めた1万円が、40年たっても1万円にしかならないと考えれば、厚労省が会社負担分を「ねんきん定期便」から消さなくてはならなかった理由がわかるでしょう。
厚生年金は「お得」どころか、サラリーマンは年金制度を支えるために、国家によって惜しみなく奪われているのです。
──これまで大手メディアがこの問題を積極的に追及してこなかった理由はどこにあるでしょうか。