政府の最大の危惧は「高齢者が生活保護に流れる」こと
橘:「基礎年金の底上げ」というのは、将来の年金の給付水準を維持するために厚生年金からさらに流用できるようにする仕組みを言いかえただけです。ただでさえ疲弊している現役世代が怒るのはもっともです。
そもそも年金制度は、「マクロ経済スライド(平均余命や物価上昇などで受給額を調整する仕組み)」によって少しずつ実質受給額を減らしていくことで維持可能なように設計されています。ところがデフレを理由に給付抑制ができなかったことで、いまの受給者はよぶんな年金を受け取り、そのツケを現役世代が払うことになりました。
厚生年金のモデル世帯(夫婦2人)で、本来は給付水準(所得代替率)を2004年の59.3%から23年までに50.2%まで下げなければならなかったのに、デフレ下でマクロ経済スライドを停止した結果、逆に24年には61.2%まで上がってしまった。この差が年金受給者の「もらい得」になっているわけですが、この「不都合な事実」を報じたのはビジネスパーソンなど現役世代を読者にする日経新聞だけで、他のメディアは沈黙しています。これも「消えた会社負担分」と同じ構図です。
厚労省が基礎年金を底上げしようと必死になるのは、このまま物価が上昇して年金の実質価値が減っていくと、一人暮らしの高齢者を中心に低所得者層が生活保護の申請に殺到することを恐れているからです。そんなことになれば生活保護制度は崩壊し、日本社会は大きな混乱に巻き込まれるでしょう。
しかしそうかといって、年金受給者に向かって「あなたの年金はもらいすぎだから削ります」とはいえない。こうしていつものように、現役世代の負担を増やすしかないという話になるわけです。
けっきょくすべての皺寄せは現役世代に押しつけられる。これが国民民主党の「手取りを増やす政策」が現役世代に支持された背景でしょう。