梨泰院事故時の10倍?

「大屋根リング内」に見る人流密集リスク

 公式発表では、今回の大阪万博の期間は184日間、主催者が期待する来場者数は2820万人です。

 平均して1日あたり15万3260人の来場者を考えていることになる。

 現実には土日や祝日、連休や夏休みに人は殺到しますから、会場内よりもターミナル駅その他で必ず雑踏は発生するでしょう。

 そこでいくつかの大まかな計算で、万博と梨泰院事故を比較して、リスクを見積もってみます。

 万博会場全体は面積が155ヘクタールありますから約15万人/日の来場者数を会場全体の人口密度で見れば、1ヘクタール当たり967人、つまり約1000人。こういう粗い計算も可能です。

 つまり100メートル四方の面積に1日当たり1000人が通過するので、開場時間9時~22時の13時間で均等割りするなら、100メートル四方に1時間あたり80人以下になる。

 人一人の周囲に10メートル以上の余裕があるから十分安全「だろう」・・・みたいな割り算をする、本学(東京大学)法学部あたり出身のお役人も、よく見かけます。

 ここではこうした見積もりを、自動車の安全運転教習に見立てて「だろう運転」もとい「だろう試算」と呼んでおきましょう。

 しかし、テーマパークの会場内で人流の現実はそんなものでしょうか?

 家族連れやグループ来場者は必ず群れて歩きます。そして事故が起きやすいのはボトルネックの部分です。

 現実に発生した梨泰院事故の実例から見積もれば、地区は全体面積が143ヘクタール程度、中心繁華街の総面積は38.3ヘクタールとのことで、仮にこの中心部に10万人/日で人が詰めかければ1ヘクタールあたり2610人/日の混雑となるでしょう。

 その中に幅3.2メートル、長さ40メートル、傾斜度10%の狭い坂が存在し、人流にわずかな「ゆらぎ」が生まれたとき・・・。

 人がよろける、段差に躓くなどなど、現実に「梨泰院雑踏事故」は発生してしまった。

 さて、万博会場全体は155ヘクタールですが「大屋根リング」内部はたった6万1035.55平方メートル、つまり6ヘクタールしかありません。

 警備当局がどのように「完璧な安全計画」を立てているのか知りませんが、公称の数字だけで考えれば、1日当たり15万人の来場者を期待しており、そのほぼ全員が「6ヘクタール」のリング内に立ち入るでしょうから、割り算してみれば、

 大屋根リング内の1日当たり「希望人口密度」は

15万人/日÷6ヘクタール=2万5000人/ヘクタール・日

 お分かりでしょうか?

 梨泰院事故は、1日当たり2610人/ヘクタール・日の雑踏の中で統計的な揺らぎ(子供が転んだり、人を押したり、段差で蹴躓いたりする、ほんの少しのアクシデント)から159人の犠牲者が出ている。

 2600人/ヘクタール・日の雑踏で。

 他方、大阪万博「大屋根リング内」の面積で考えると、1日当たり2万5000人/ヘクタール・日の雑踏になりうる、という「希望的予測」を、万博当局は公式に発表しているように見える。

 単純計算で、梨泰院事故の際の10倍に上る、人の密集を作り出していることになっていはいませんか?

 自分でも計算しつつ唖然とし、何度も検算してしまいました。

 これは全部、公開情報から、小学生でもできる粗い計算だけで導く議論です。

 この程度の見積もりでもハイリスクが懸念されるわけで、神のような「完全な安全管理」がなされなければ、何かあっても不思議ではないと、私なら用心します。

 15万人からの人がやって来る現場で、事故を誘発しうる「ゆらぎ」をゼロにする安全対策を立案するだけでも並大抵のことではありません。

 ましてその完全な実施を、いきなり連れて来た派遣人材などで実現するのでしょうか?

 ちなみに東京ドームの定員は5万5000人。1日当たりその3倍の人数をさばく、と言う話をしています。

 JBpressのスタッフには、こういう計算を丁寧にフォローしてくれる人がいますので、すべて公式発表の数字を引用して、一緒に検算しておきましょう。

 万博当局の公称希望集客数2820万人会期184日間=1日当たり15万3260人の来場者数。

 これに対して、大屋根リング内面積は公称約6万1035平方メートル=約6ヘクタールだから、

 15万3260人/日÷約6ヘクタール=約2万5000人/日・ヘクタールの人の群れ、別の表現を取るなら「雑踏」が発生します。

 こういう直観に訴えながら検算することを、特に東京大学理学部物理学科では教えますので、ここでも学生諸君同様に確認しておきましょう。

 仮に100メートル四方に2万5000人詰め込めば、10メートル四方に250人、1平方メートルに2.5人で、ほぼ満員の電車内/1日当たりではあるけれど、という数字です。

 これを13時間にバラまくとき、どのような確率分布で人がやって来ると、どんなリスクがあるのか、というのは恰好の応用問題になります。

 他方、韓国の梨泰院は地域全体が約143ヘクタール、繁華街は38ヘクタール程度で、ここに1日10万人以上が殺到したとすれば、

10万人/日÷143ヘクタール≒700人/日・ヘクタール:エリア全体

10万人/日÷38ヘクタール≒2631人/日・ヘクタール:中心部

 これと大阪万博の

15万人/日÷155ヘクタール≒967人/日・ヘクタール:エリア全体

15万人/日÷6ヘクタール≒2万5000人/日・ヘクタール:中心部

 と見比べると、いいとこ、梨泰院と夢洲は同程度というか、夢洲の方がやや危うく、局所の混雑を仮定する以前に10倍程度、混雑の酷い状況が生まれて不思議でないことが懸念されるわけです。

 だから私の結論は「何かあったとき、怪我をするのは自分だから、近づかない方がよい」になる。