トランプ大統領に石油業界の不満が高まる理由
18日に行われた電話による米ロ首脳会談で「ロシアとウクライナの双方がエネルギー関連施設を標的とする攻撃を30日間停止する」との合意が成立したことが、市場で「売り」を誘った。全面的な停戦で合意する目途は立っていないものの、3年以上続いたロシア・プレミアムが剥落する可能性はますます高まっている。
就任以降、原油市場を振り回し続けるトランプ氏だが、「米国内の原油生産量を増大させる」との公約の達成は困難になりつつある。
トランプ氏は19日、就任後初めて石油業界の幹部とホワイトハウスで会談した。
政権側は「国内の採掘促進に資する許認可プロセスの改革など建設的な内容だった」としているが、これを鵜呑みにすることはできない。
ニューヨークタイムズが19日「米国の石油業界はトランプ氏の関税政策に不満だ」と報じたように、業界を巡る環境が悪化しているからだ。
最初に指摘できるのは、関税付加により開発に必要な資材価格が高騰していることだ。
3月15日付け日本経済新聞によれば、油井管の2月の平均価格は1ショートトン(約0.907トン)当たり約2000ドル(約30万円)と前月に比べて4.2%上昇し、昨年2月以来の高水準となっている。
カナダ産原油に10%の関税を課したことも打撃だ。
米エネルギー情報局(EIA)のデータによれば、カナダからの原油輸入量(14日までの週)は前週に比べて約54万バレル減少して日量約310万バレルとなっており、ガソリンなど石油製品の生産に支障が生じかねない状況となっている。
トランプ関税が災いして、原油価格が下落傾向にあることも頭の痛い問題だ。
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石油開発企業からは「原油価格が80ドルに上昇しないと増産に踏み切れない」との恨み節が聞こえてくる。「原油価格の下落」と「米国の原油生産量の増加」という二兎を追うことは不可能な実態が明らかになっている。
トランプ氏に7500万ドル(約112億円)の選挙資金を支援したとされる石油業界だが、「恩を仇で返された」との思いが去来しているのではないだろうか。
藤 和彦(ふじ・かずひこ)経済産業研究所コンサルティング・フェロー
1960年、愛知県生まれ。早稲田大学法学部卒。通商産業省(現・経済産業省)入省後、エネルギー・通商・中小企業振興政策など各分野に携わる。2003年に内閣官房に出向(エコノミック・インテリジェンス担当)。2016年から現職。著書に『日露エネルギー同盟』『シェール革命の正体 ロシアの天然ガスが日本を救う』ほか多数。