アメリカは振れ幅が大きい国だ

 アメリカは極端な社会である。他の国では認め難い大きな振れ幅とダイナミズムを持っている。

 自由民主主義の盟主と目されるが、かつてアメリカは憲法修正第18条によって禁酒法時代を迎えている。個人の自由が制限され、密造や裏の流通ルートが広がり取り締まりといたちごっこを繰り広げた。

 映画『アンタッチャブル』(1987年)で描かれるような世界である。

 連邦政府においては1920年代のことであるから、せいぜい100年前の話である。それほど昔の話ではない。しかも1933年にフランクリン・ルーズベルトの手で廃止されるまで10年以上も続いているというから凄まじい。

 今回も立ち返ることができるのだろうか。

 アメリカと直接の関係を持つものでなくとも、いまのアメリカを理解する手がかりが必要だ。我々はともすればすっかり忘れているか、気付かないフリをしているが、安全保障に限らず、生活のすみずみまで、そしてその根底にまで「アメリカ的なもの(アメリカン・ウェイ・オブ・ライフ)」が浸透しているからだ。

 現在でもアメリカには40万人以上の在米邦人がおり、日本にとっては中国に次ぐ輸出先であり、アメリカにとっても4番目の輸出先である。

 日本からみれば輸出超過だが、日本は世界最大の対米直接投資国である(外務省によれば、対米直接投資残高は92兆円。それに対して、米国の対日直接投資残高は10兆円にとどまる)。

 そんな大仰な話を取り上げなくても、我々は日々アメリカから輸入した飼料で育った肉を食べ、マクドナルドでハンバーガーを食べながら、米企業が提供するSNSや情報プラットフォームをiPhoneで眺めている。

 先日、私用で宮古島を訪れた。

 だいたい出張や旅行の際には荷物に本を詰め込み過ぎるきらいがあるのだが、そのなかに「コモングッド(common good)」の概念から読み込もうとした一冊があったのである。

 90年代にクリントン政権で労働長官を務めたロバート・ライシュの最新刊の邦訳である(『コモングッド 暴走する資本主義社会で倫理を語る』(東洋経済新報社、2024年))。

 公共政策のプロフェッショナルで、アメリカの代表的なオピニオンリーダーのひとりと目されてきた人物である。