「最大の不平等」とされる裁判権の問題
「最大の不平等」とされているのが裁判権の問題です。犯罪容疑者を拘束し、裁判にかけることは、国家主権の最たるものです。ところが、現行の地位協定では、米国の軍人・軍属による公務中の犯罪は米国の軍法会議で裁かれることになっており、日本に裁判権はありません。
公務時間外に基地の外で犯罪を犯した場合はどうでしょうか。
現行犯逮捕などの場合は日本側がその容疑者の身柄を拘束し、取り調べを行い、起訴することもできます。しかし、容疑者が基地の中に逃げ込めば、話は別。日米地位協定の第17条には「容疑者の身柄が米軍の管理下にある場合には、日本側が起訴するまで米軍は容疑者の引き渡しを行わず、米軍が拘禁を続ける」という趣旨の規定があります。
身柄を確保できないと十分な取り調べができません。そのため、日本側が起訴できなかったり、当の容疑者がそのまま米国へ戻ったりして、事件そのものがうやむやになるケースも少なくありません。
この不平等に日本側の怒りが爆発したのが、1995年に沖縄県で起きた少女暴行事件です。
3人の米兵が12歳の少女を襲った
容疑者は3人の米兵で、当時小学生だった12歳の少女が被害に遭いました。3人は海兵隊基地のキャンプ・ハンセンでレンタカーを借りてドライブ中、街で買い物をしていた少女を誘拐。粘着テープで縛るなどして海岸に運び、集団で性的暴行を加えました。
沖縄県警は早々に3人を特定し、逮捕状を取ったものの、米側は地位協定に基づいて身柄の引き渡しを拒否。そのことで沖縄県民の怒りが頂点に達し、米軍に対する抗議活動が一気に高まりました。
「県民総決起大会」には知事を先頭に8万人以上が集まり、米軍基地の移転・縮小を求める動きに発展します。事態が日米関係そのものに波及することを恐れた日本政府も米側との協議を始め、双方は「今後は殺人や強姦などの凶悪犯罪については起訴前であっても日本側に身柄を引き渡すことがある」という趣旨の合意に達しました。
それでも、本当に身柄を引き渡すかどうかは、米側の「好意的考慮=sympathetic consideration」(日米合同委員会の合意文書)にかかっているのです。