
トランプ大統領の当選を後押ししたリバタリアン、投資家ピーター・ティール氏は1月10日に「A time for truth and reconciliation」(真実と和解の時)という論説を英経済紙フィナンシャル・タイムズに寄稿した。論旨は「新大統領はこれまで政府が公表していなかった事実を(インターネットを通して)公表し、民衆と政府の“和解”を目指すべきだ」というもの。実際、トランプ大統領は就任直後から積極的に情報公開を進める大統領令にサインしている。日本でも広がる「陰謀論」と「メディア不信」の本質、そして情報開示を求めたティールの真意を『テクノ・リバタリアン 世界を変える唯一の思想』著者の橘玲氏に解説してもらう。
(湯浅大輝:フリージャーナリスト)
>>(後編を読む)もはや陰謀論で世界は地獄に…兵庫県知事選で露見した「解釈の多様性」、有権者はSNSの「面白い物語」を選んだのか
事実と解釈のメディア独占に対する「異議申し立て」
──ティールの論説「A time for truth and reconciliation」は、トランプが大統領に就任する前の内容で、要約すると「新大統領はこれまで政府が公表していなかった事実を(インターネットを通して)明らかにし、民衆と政府の“和解”を目指すべきだ」というものです。具体的には「“武漢研究所での機能獲得研究(Gain of function)”や“ケネディ暗殺文書の公開”」といったアメリカ世論を二分するようなテーマについて、政府は情報開示をすべきだとしています。ティールがこうした主張を展開するのはなぜでしょうか。
橘玲氏(以下、敬称略):リバタリアン(自由原理主義者)のティールが「情報は自由になるべきだ」と主張するのは、ある意味当然です。興味深いのは、なぜこのタイミングで、アメリカのメディアではなくイギリスの経済紙に寄稿したのかでしょう。

アメリカにかぎらず、インターネットとSNSが登場する以前の世界では、マスメディアが「事実」と「解釈」を独占してきました。アメリカでは共和党支持者を中心に国民の3分の2が「メディアは信用できない」と回答するほどリベラルなマスメディアに対する不信感が強く、それがトランプ勝利の原動力になりました。