この低コストが実現できたのは、既存のAIモデルが出力するデータを使って新たな生成AIを作るからである。この手法を「蒸留」と呼ぶが、DeepSeekは、オープンソースとして公開されているAIモデルを利用したという。
アメリカの対中規制によって、生成AIの開発に必要なNVIDIAの最新半導体入手できない状況になったため、新しい発想が生まれたのである。「災い転じて福となす」ということである。
かつて、アメリカは、華為(ファーウェイ)の製品を閉め出した。これは華為には大きな打撃となった。しかし、その後は、研究開発に力を注ぎ、見事に復権している。昨年の春に華為を視察したが、世界最高水準のスマホの開発に成功し、自動車産業にも進出する勢いだった。これもまた、アメリカの規制が生んだ副産物である。
AI開発をめぐる国際競争の転換点
27日のニューヨーク株式市場では、AI向け半導体大手NVIDIAの株が、前週末比で17%急落し、時価総額が約6000億ドル(約92兆円)吹き飛んだ。半導体銘柄のマイクロン・テクノロジーが11%、アームが10%下落した。
米大統領に就任した翌日の1月21日、トランプは、ソフトバンクの孫正義会長、オープンAIのサム・アルトマンCEO、オラクルのラリー・エリソン会長らと会い、AI開発のために共同出資する新会社スターゲートに5000億ドル(約78兆円)を投資することを発表した。
満面の笑みをたたえたトランプは、アメリカがAIで世界をリードすると豪語したが、その直後にDeepSeekから冷や水を浴びせかけられたのである。
サム・アルトマンは、28日、DeepSeekのR1は「印象的なモデル」と評価しつつも、「もっと優れたAIを発表予定だ」と明らかにした。
また、29日には、中国の電子商取引大手のアリババ・グループの傘下企業が、DeepSeekのAIモデルを上回るという最新モデルを発表した。「Qwen2.5-Max」という名称である。
このように、アメリカの一人勝ちと言われたAI分野に、中国企業が挑戦し始めている。