経営陣が変わって何を変えるのか?
本件事案は、2023年のことであるから、労働施策総合推進法施行後の事案であることは明らかだ。同法に基づいて、厚労省は「事業主が職場における優越的な関係を背景とした言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針」を公表した。
同法と同指針を通じて、大企業においては特に雇用管理上の措置としての対策が義務化されている。特筆すべきは、パワーハラスメントが「①優越的な関係を背景とした」「②業務上必要かつ相当な範囲を超えた言動により」「③就業環境を害すること」(身体的若しくは精神的な苦痛を与えること)と定義されたことにある。
本件が該当する可能性は極めて高く、そして問題の詳細は第三者委員会や司法を通じて明らかにされるとしても、フジテレビがどのような対応を取っていたのか、それが実効的なものであったのか、それらをどのように改善し、どのように再発防止等につなげるのかを掘り下げることができたはずなのだ。
テレビの制作現場では従業員以外にも、制作会社や芸能事務所、タレントや放送作家、文化人といった個人事業主など様々な立場の人が多数働いている。前述のように筆者も長くコメンテーターを務めてきたが、問題が生じたときの相談窓口について周知されたことは、局を問わずただの一度もない。
近年は公正取引委員会も厳しい目を向けているが、制作現場で働く業界すべての人が安心して働くことができる実効的な環境づくりが求められるし、フジテレビはその在り方を早急に示すべきだった。
これらの事項は当事者間の認識が食い違っていたり、また調査以前から明らかにできたりする内容が少なくないはずだ。そうでありながら、10時間もの記者会見を通じて明らかになった事項は驚くほど少なく、フジテレビ側も「再発防止」を幾度も口にしながら、ここで述べたような具体的な内容についてはほとんど明らかにしないまま現在に至っている。経営陣が変わったとして、いったい何を、どのように改善するのか、その姿は判然としないままだ。