免許剥奪されないことをいいことに自主的取り組みをしないのなら…

 フジテレビは言うまでもなく、放送事業者である。放送は免許事業である。本件を背景に、フジテレビの放送免許剥奪等を求める声がある。

 気分はわかる。しかし、やはりそれは早計な判断だ。

中居正広さん引退で大激震フジテレビ、「電波停止」「免許取り消し」総務省が踏み込む可能性は?信頼回復へ最後の時【西田亮介の週刊時評】| JBpress

 免許剥奪はフジテレビの放送事業の継続に直結する。端的な権力の介入であり、表現の自由とその他の放送事業者も含めて事業者の萎縮が強く懸念されるためだ。

 様々な批判がなされているものの、実務的には総務省は外資規制による東北新社の認定基幹放送事業者の認定を取り消したことなどを除いて、やらせや虚偽報道が相次いだ時期にもあくまで行政処分ではなく、厳重注意などの行政指導を中心に対応してきた。見方によっては慎重過ぎるか、表現の自由に配慮した運用を行ってきた。

 こうした規制当局の対応の説得性が毀損されるとすれば事は重大だ。放送法はもとより内容規制を回避し、放送事業者の自主規制や自主的取り組みを強く求めている。

 だがこうした自主規制に対して、特に民放各社が誠実に取り組んできたかといえば疑問が残る。キー局においてさえ、番組審議会のメンバーに、放送制作と密接に関わるような著名人を複数選んでいるようなケースや、番組基準が形骸化しているようなケースも散見される印象だ。

◎フジテレビ「番組基準 

 2023年の前回放送免許更新は、奇しくも業界がジャニーズ問題に揺れるなかでのことであった。ある意味、総務省による放送免許更新に際してのお約束の表現ではあるのだが、「放送の公共性、社会的責務の重要性を深く認識し、放送に携わる者の放送倫理の向上に努めること」「放送番組については、その制作過程を含め、人権及び児童・青少年に与える影響に十分配慮するとともに、関係法令を遵守すること」という民放各社に求めた要請の文言は重たい意味を持ってくる。

◎総務省「地上基幹放送事業者に対する要請 

 製造物責任法を例に挙げるまでもなく、社会の透明性や説明責任を求める声は強くなっていることは自明であろう。その一方で、マスメディアはどうかといえば、旧態依然としたままだ。

 実際には、同じように見える情報番組でも社によって位置づけが異なっており、ワイドショーも報道基準でガバナンスする局もあれば、特別なガバナンスを行う局もある。

 同様に、局の関与が強い社もあれば、制作会社の影響が大きな社もある。曜日ごとに制作会社が異なる局もある。

 なお、視聴者がこれらを区別することは極めて困難である。社会との対話は形式的で、各社サイトに公開されている情報も限定されている。

 インターネット企業のなかにも、マスメディアと同等かそれ以上に説明責任を果たそうとしている社も現れつつある。

◎LINEヤフー「メディア透明性レポート 

 マスメディアが「昔と同じ」だとしても相対的に時代遅れになってしまいかねない。報道は信頼を前提としてはじめて機能し、現実的に特別な地位にある。そのなかで自主的な取り組みが形骸化し、旧態依然とするようでは、社会のなかでの信頼は毀損するばかりであろう。新聞、テレビというメディアに対する不信感は募るばかりである。

 本件を奇貨として、フジテレビに限らず、報道に関わる事業者、そして記者が自ら襟をただし、ガバナンス全般を見直すことで、よりよい報道がなされることを期待したい。