キム選手を4回でKO、国内ファンに“置き土産”

 当初は昨年12月24日にIBF、WBO1位のサム・グッドマン選手(豪州)との対戦が予定されていた。相手選手の負傷で1カ月延期となり、相手の再度の負傷で試合13日前に中止が決定。急きょ、代役となったのがキム選手だった。

 明らかな格下だが、対日本人7勝無敗の不気味さもただよう。対策に費やす時間は限られ、サウスポーから繰り出されるパンチをもらう場面もあった。井上選手も「いつもより少し被弾するパンチが多かったです。正直に言うと、キム選手の試合はざっと見たくらい。あとはキャリアと引き出しを信じて戦おうと思ったが、軌道を(完全に)把握できていなかったことが、ああいうパンチをもらったのではないか」と打ち明けた。

井上選手のパンチを浴びて顔を歪めるキム選手(写真:AP/アフロ)

 それでも、実力差は明白だった。顔をはらしたキム選手は敗戦後、「井上選手は速くて強かった。パンチに関してはどうすればうまく当たるかをよく知っていた」と完敗を認めざるを得なかった。

 井上選手にとっては、海外での本格的興行を前にした日本国内での“置き土産”となる一戦でもあった。それだけに、井上選手陣営は、井上選手もしくはキム選手のインフルエンザ発症などの不測の事態に備えて2月上旬にも同じ会場を押さえる念の入れようだった。

 試合後のリングでは「2025年は海外での試合をしたい。ラスベガスとサウジアラビアでの試合を目指しています」と高らかに海外進出を宣言した。

 すでに春に予定される米ラスベガスでの試合は具現化しつつある。プロモートする米トップランク社のボブ・アラムCEOが会見や試合後のリングで開催の実現を明言し、対戦相手にもWBC1位のアラン・ピカソ選手(メキシコ)の名前が挙がる。

 アラムCEOは井上選手が積み上げてきたキャリアについて、「(元世界6階級制覇の伝説的ボクサー、マニー・)パッキャオ(フィリピン)より上」と断言するほど期待が大きい。そんなモンスターに、ファンもさらなる衝撃的な強さを求める。試合後の会見では、この先の飛躍に関する質問が必ず出る。井上選手はこの日も、「ボクサーとしての完成度は自分でも測れない。キャリア最後までレベルアップする練習を続けたい」と向上心を語った。

 ただ、ボクシング史にも残る4団体統一王者という偉大な称号を守り続ける戦いの中にも、ここ数試合は特に、圧倒的な強さゆえの宿命が浮き彫りになっている。「勝って当たり前、倒して当たり前」という井上選手のKO勝ちに、高い期待を求める観客が“慣れ”を感じた雰囲気もただようのだ。