主戦場は海外に
30億円という井上選手とリヤド・シーズンの契約で驚くべきは、その内訳で、25日の試合も含めて、トランクスにロゴを着けることと、アンバサダー的な役割を担うこととなっており、現地での試合の契約やファイトマネーは含まれていない。ファイトマネーは、一体どれほど高額になるのか。
東京新聞では、井上選手がそこに価値を見出したとし、井上選手が「中量級、重量級の選手たちと比べると、軽量級はどうしても評価が低くなる。そういう点でも『階級の壁』を壊した」と契約の意義を語った点を強調している。
ボクシングに限らず、米大リーグやサッカー市場を例に出すまでもなく、スポーツの世界的なマーケットは近年、高騰の一途をたどっている。かつては海外のスター選手を呼び寄せることができた「ジャパン・マネー」が入り混む余地は狭まってきている。
こうした現状で、世界的なニーズが高まりを見せる井上選手の主戦場が海外へ移るのは「市場の原理」。アラム氏からは「日本は(米大リーグ、ドジャースの)大谷翔平というすばらしい選手をロサンゼルスにもたらしてくれました。そして、今年の春、井上尚弥選手をラスベガスへもたらしていただければと思います。ドジャースから(井上選手に)スカウトがこないように見守ってください」というジョークも飛び出した。
いずれにしろ、国内でのリングはしばらく見納めとなりそうだ。
田中 充(たなか・みつる) 尚美学園大学スポーツマネジメント学部准教授
1978年京都府生まれ。早稲田大学大学院スポーツ科学研究科修士課程を修了。産経新聞社を経て現職。専門はスポーツメディア論。プロ野球や米大リーグ、フィギュアスケートなどを取材し、子どもたちのスポーツ環境に関する報道もライフワーク。著書に「羽生結弦の肖像」(山と渓谷社)、共著に「スポーツをしない子どもたち」(扶桑社新書)など。