(田中 充:尚美学園大学スポーツマネジメント学部准教授)
イチロー氏が日本時間1月22日、米野球殿堂に選出された。現在、マリナーズ会長付特別補佐兼インストラクターのイチロー氏は、米大リーグのシーズン最多安打(262安打)の新記録を樹立するなど、メジャー通算3089安打をマークした。
史上2人目の満票選出とはならなかったが、引退後5年の有資格1年目で、同16日に選出された日本の野球殿堂と合わせて史上初の日米両方で殿堂入りを果たす快挙となった。
殿堂入りを決める投票資格は、日米ともに長年の取材歴がある記者が有する。イチロー氏の殿堂入りを巡っては、日本では26人、米国では1人が投票しなかった。投票するか否かは、資格を持つ記者の「プロの目」に委ねられるが、メディアの取材に必ずしも好意的な姿勢を取っていたわけではないイチロー氏に対する「反感」が満票を逃した要因ではと邪推する声も挙がる。
もしそうなら、殿堂入りの判断に記者の私情が入り込み、その結果、ファンの感覚と乖離する事態を招く可能性もある。スポーツ報道においても、メディア不信が高まるリスクもあるかもしれない。
「史上初の満票」を逃す
米野球殿堂入りの記者会見に臨んだイチロー氏は「1票足りなかったのはすごくよかった」と野手では史上初となる満票を逃したことを笑顔で受け止め、「努力とは違うので補いようがないものだが、不完全な中で、自分なりの完璧を追い求めて進んでいくのが人生だと思う。不完全であるというのは、生きていく上でいいなあと改めて考えさせられた」と持論を語った。
メジャーの殿堂は、10年以上プレーした選手が引退から5年で殿堂入りの有資格者となる。ただし、資格を得てから10年を超えた場合や、得票率が5%に届かないと資格を失う。日本選手では過去、野茂英雄氏と松井秀喜氏が1年で対象から外れた。
投票するのは、全米野球記者協会(BBWA)に10年以上連続で所属する“メジャー取材のプロの目”を持つ記者たちだ。今年はイチロー氏を含む28人の有資格者に対し、最大10人まで投票可能で、75%以上の票を得れば殿堂入りが決まる。イチロー氏は394票のうち、393票を獲得。得票率は99.7%で、わずか1票だけ満票に届かなかった。
イチロー氏は日本球界で史上初となる7年連続首位打者を獲得するなど、通算3000打数以上の打者の通算打率としては断トツ首位の0.353をマーク。2001年にメジャー移籍後はマリナーズで1年目から首位打者やリーグMVPを獲得するなど、タイトルを総ナメにした。
当初は非力さを不安視する声もあったが、卓越したバットコントロールと内野ゴロも安打にしてしまうスピード、さらには広範囲な守備と「レーザービーム」と称された強肩で魅了して前評判を覆した。メジャーでも10年連続でシーズン200安打を放つなど、日米通算4367安打の金字塔を打ち立てた。
この日の会見で発した「まず、2001年にMLB(大リーグ)に挑戦した年、この日を地球上の誰も想像できなかったと思うんですよね」との言葉には実感がこもった。