今、図書館や体育館など多くの公共施設は指定管理者制度によって民間業者が受託し、管理運営を行っている。この場合、行政から「委託料」の支払いを受けて運営しているが、千葉ロッテが考えるこのスキームは、前例がなかった。
「従来、行政は第3セクターに委託料を支払って管理業務させていた。それを指定管理者制度ができたからといって、同じ委託料を支払っていたら、単に管理業務を引き継いだだけで、行政にも民間にも何のバリューもない。
私たちには『委託料をいただく』という発想ではなく、『事業権を取得する』ということが目的でした。そのためにはリスクは全部球団が取る。そういう提案をしたんです」
もちろん前例のない提案だった。
フードサービスを手掛けるためスタジアムにCRM導入
「私は2005年に千葉ロッテに入社し、当時は企画広報部長として、『球場ありきのビジネスモデル』を考え、経営企画室が千葉市と何度も折衝をしました。
そもそも指定管理者は、基本的に赤字運営になっている公共施設を民間が引き受けるのが通例です。
ところが当時の指定管理者だった第3セクターの株式会社千葉マリンスタジアムは、ずっと黒字だった。そして球場使用料を支払っていた千葉ロッテマリーンズはずっと赤字でした。黒字の公共施設があえて民間に指定管理者として託す、普通に行政の立場から考えれば『そんな必要はない』ということになると思います」
これまでにない斬新なスキームとなったが、球団には抵抗感はなかったのだろうか?
「球団はずっと赤字経営でしたから、異論はあまりありませんでした。紆余曲折がありましたが、2006年度から株式会社千葉ロッテマリーンズが、千葉マリンスタジアムの指定管理者になりました」
従来の指定管理者だった第3セクターの株式会社千葉マリンスタジアムとも連携し、引き続き千葉ロッテの「利用者管理業務・施設管理業務等の受託者」にした。
「先ほど説明したように、千葉ロッテは、指定管理者になることで球場、試合に関する包括的な事業権を得ることが目的だった。従来のベーシックな球場・施設の管理業務は、従来通りこの業務に精通している第3セクターに委託する方が賢明だと判断しました。
やりたいのは『足し算』ではなく『掛け算』です。球場というハードを手に入れるわけですからこのハードで飲食、物販、広告などさまざまな事業を展開したい。それが目的でした。
最初に手掛けたのは『食』です。これまで、球場の飲食には、千葉ロッテは全く手が出せなかった。それを、各店の売り上げを全部管理して、どんなお店で買っても千葉ロッテのMポイントがたまるようにした。各店舗には球団が選定した共通POSを入れ、今では当たり前になっているCRM(Customer Relationship Management=顧客関係管理)を導入した。つまり、指定管理者という制度を稼働させるためのITシステム(MIX:Marines Integrated Customer Services System)の開発を同時並行的に行ったということです」
球場での観客の消費行動をすべて一体化して、一元管理できるようにしたのだ。業績は急上昇した。