絵空事ではない米国の「利上げの始まり」

 原油価格が高止まりすれば、日本の貿易収支の改善幅も限定され、需給面における円安圧力が残ることになる。その上で、金利面からはFRB(米連邦準備理事会)の「利下げの終わり」、極端なリスクシナリオとして「利上げの始まり」が織り込まれるのだとすると円安局面の再起動は一層早まる。

 トランプ大統領は演説において「米国の黄金時代が始まる」と切り出し、「この瞬間から米国の衰退は終わる」と声高に宣言しているが、そもそも米国経済はその生産性の高さを背景に先進国では頭一つ抜け出た存在である。

 少なくとも「衰退している」というイメージはもともとないし、だからこそ米金利とドルは高止まりしてきたと言える。

 その上で、これからインフレ誘発的なポリシーミックスが繰り出されるのであれば、「利上げの始まり」は決して絵空事にはならないだろう。

「利上げの始まり」が争点化すれば170円台定着すら視野に入る中、表向きはドル安志向を隠さないトランプ大統領がこれをどう捉えるのか。メインシナリオとしては「建前ではドル安志向を示しつつ、本音ではドル高を望むはず」と考えて良いだろう。

「建前では」は「政治的には」と言い換えてもよく、具体的には2026年の「中間選挙を見据えれば」という言い方にもなり得る。

 余談だが、4年後の再選はなくとも、トランプ氏が共和党内で院政を敷き、影響力を誇るためにはやはり多くの民意は蔑ろにできないという見方もあるようだ。実効相場で見て、プラザ合意以来のドル高が続いている事実をトランプ大統領が看過するだろうか。

【図表②】

ドルの実質実効為替相場と長期平均の推移
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 この点、前回の本コラムへの寄稿「今年最大のテールリスク「プラザ合意2.0」はブラックスワンか、焦点はトランプ政権がどこまでドル高を許容するかに」でも論じた通りだ。

 もちろん、「プラザ合意2.0」はあくまでブラックスワンの範疇を出ない論点であるものの、エネルギー価格高止まりが続く以上、結局はドル高が政権課題として居残るだろう。この点は視界から外すべきではない論点である。

※寄稿はあくまで個人的見解であり、所属組織とは無関係です。また、2025年1月21日時点の分析です

唐鎌大輔(からかま・だいすけ)
みずほ銀行 チーフマーケット・エコノミスト
2004年慶応義塾大学卒業後、日本貿易振興機構(JETRO)入構。日本経済研究センターを経て欧州委員会経済金融総局(ベルギー)に出向し、「EU経済見通し」の作成やユーロ導入10周年記念論文の執筆などに携わった。2008年10月から、みずほコーポレート銀行(現・みずほ銀行)で為替市場を中心とする経済・金融分析を担当。著書に『欧州リスク―日本化・円化・日銀化』(2014年、東洋経済新報社)、『ECB 欧州中央銀行:組織、戦略から銀行監督まで』(2017年、東洋経済新報社)、『「強い円」はどこへ行ったのか』(2022年、日経BP 日本経済新聞出版)。