「ヒメイカの多様性が気になって仕方がありません」

──メスがまんべんなくさまざまなオスの子孫を残そうとしているという点について、野外での研究も行っていました。

佐藤:ヒメイカは、60個から100個程度の卵をひとまとまりの卵塊としてアマモの葉に産みつけます。一個体のメスから産まれた卵がまとまって存在しているのです。

 自然の状態の卵塊を採取し、そのDNA解析を行い、父親から受け継いだDNAを調べていきました。すると、1個体のメスはかなり多くのオスとかかわっているということが明らかになりました。

 1個体のメスは、平均で15個体程度、最大で19個体のオスと繁殖していました。これは、予想以上の数でした。ヒメイカの世界では、いろいろなオスがきちんと子孫を残せるようになっていたのです。

──今後、研究を通して実現したいことや夢がありましたら、教えてください。

佐藤:ヒメイカから始まって、今はいろいろな種類の頭足類の研究に手を出しています。それこそ、タコの研究もしているような状態です。

 研究内容も繁殖だけにとどまらず、捕食や摂餌にも手を広げています。とにかく、面白い行動が見られたら研究してみようという気持ちです。

 そんな中でも、ライフワークだと思っているのは、ヒメイカの研究です。ヒメイカとは、かれこれ20年近い付き合いになりますが、まだまだ面白くて、研究したいことが山積しています。

 最近では、ヒメイカの多様性が気になって仕方がありません。私が主に研究してきたのは、愛知県の知多半島や北海道臼尻町の海に生息しているヒメイカです。このヒメイカを含め、世界にはわかっているだけで9種類のヒメイカが生息しています。

 ちなみに、9種類のうち2種類のヒメイカは、私が海外の研究者と共同で新種記載をしたリュウキュウヒメイカ(学術名:Indiospepius kijimuna)とツノヒメイカ(学術名:Kodama jujutsu)です。

 ヒメイカは種類が違っても、外見は似たり寄ったりです。けれども行動は種類によって全く異なります。特に、交接後のオス選びに関する精子の貯蔵や利用という繁殖にかかわる部分では、ヒメイカの種類によって大きな違いがあるようです。

 そういう行動がどのように進化してきたのかという点を、今後、世界中のヒメイカを比較することで明らかにしていきたいと思っています。

佐藤成祥(さとう・のりよし)
東海大学海洋学部水産学科講師
1980年、北海道出身。2010年、北海道大学大学院環境科学院博士課程修了(環境科学博士)。島根大学特任准教授などを経て、2019年より現職。2017年「ヒメイカの交尾後精子排除によるCryptic Female Choice」で第8回日本動物行動学会賞を受賞。

関 瑶子(せき・ようこ)
早稲田大学大学院創造理工学研究科修士課程修了。素材メーカーの研究開発部門・営業企画部門、市場調査会社、外資系コンサルティング会社を経て独立。YouTubeチャンネル「著者が語る」の運営に参画中。