ヒメイカの世界では小さいオスのほうがモテる

──書籍の中では、ついばみ行動の後にメスが精子を食べている、という話も紹介されていました。

佐藤:捨てることもあれば、食べてしまうこともあります。どういうときに捨てていて、どういうときに食べているのかという点は現時点では不明です。体感的には、捨てるよりも食べる頻度の方が高いという印象を持っています。

──ヒメイカのメスの精子塊のついばみ行動は、CFCに関係があったのですか。

佐藤:状況証拠的にではありますが、関係があるということが実験で確認できました。

 体の大きいオスと交接した後では、メスは高頻度で精子塊のついばみ行動をしていることが示されました。これは、おそらくヒメイカの世界では体が大きいオスよりも小さいオスのほうがモテるということを予想させます。

──なぜ、ヒメイカの世界では、体の小さいオスがモテるのでしょうか。

佐藤:はじめは、体が大きいオスは目立つから敵に見つかりやすく捕食されやすい、つまり生存能力が低いからではないかと考えていました。実験で検証しようと思ったのですが、それを支持する結果は得られませんでした。

 次に、大きいヒメイカのオスは年をとっているので、精子が古いのではないか、というふうに考えました。精子の質をいろいろな条件で調べるというところには、まだ着手できていません。

 最も可能性の高い仮説だと思っているのはオスの射精量です。大きいオスほど射精量が多いというのは事実です。そういうオスの精子をそのまま受け入れてしまうと、小さいオスの子孫は減っていきます。

 メスは、そういった不均衡をできる限り排除して、まんべんなくさまざまな形質のオスの精子を確保するためについばみ行動をしているのではないか、と現段階では考えています。

──書籍の中では、さまざまなオスの精子をまんべんなく使うためにCFCをしているのではないか、という仮説を検証した実験が紹介されていました。