装甲車の支援なし、歩兵主導の絶望的な突撃命令

 この戦闘は8時間にわたって続き、ウクライナ軍は弾丸が尽きて撤退に追い込まれた。言語の違いによるロシア兵士と北朝鮮兵士のコミュニケーションが障害になっているものの、北朝鮮は数的優位に物を言わせて前進する。しかし、その代償は大きい。

 米国家安全保障会議のジョン・カービー戦略広報調整官は、北朝鮮人民軍は昨年12月20~27日の間、クルスク州で約1000人の死傷者を出したと発表。ロシア軍司令部と金正恩は装甲車の支援なしに歩兵主導で北朝鮮兵士を消耗品として扱い、絶望的な突撃を命じている。

 ゼレンスキー氏は1月5日、クルスク州で3800人の北朝鮮兵士が死傷したと述べた。これはクルスク州の北朝鮮兵士1万2000人の約3分の1に相当する。1月3~4日に北朝鮮人民軍は歩兵大隊を失った。しかし金正恩はさらに3万~4万人の増援部隊を送る可能性があるという。

 戦争研究所は「ロシア軍司令部がロシア軍兵士と同様かそれ以上の規模で北朝鮮人民軍部隊を消耗度の高い歩兵主導の攻撃に使用した場合、ロシア軍とともに戦うことから教訓を得て身につける能力は著しく低下する」と評価している。

 北朝鮮人民軍が現代のドローン戦に効果的に対処する方法を学習できていないことは北朝鮮兵士が残した日記からも明らかだ。

【木村正人(きむら まさと)】
在ロンドン国際ジャーナリスト(元産経新聞ロンドン支局長)。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『EU崩壊』『見えない世界戦争 「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。